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TORENDIA

春夫偏見

本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

佐藤春夫が発表した文藝家の生活に関する論考の支離滅裂な内容を直木三十五が痛烈に批判する。稿料の多寡を巡る幼稚な算術や、他の職業との無意味な比較、文藝家の社会的役割に対する矛盾した主張などを逐一挙げ、私的な偏見と無知に基づいた議論であると断じる。作家としての姿勢を問い直し、世の中の仕組みを無視した空想的な正義感がいかに現実離れしているかを論じる。

直木三十五

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🎧 春夫偏見 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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◇少し何うも「文藝家の生活を論ず」は、得意のもので無さすぎる。餘り無さすぎて、私はそれを正すのに大して興味をもたないが、彼の名を信じて、このまゝこれを正義とする人があつたなら、その人は不幸であると思ふから、いかに支離滅裂であるかといふ事だけを手短かに書いてをく。それは救はれそうにもない春夫氏にでは無く――小部分でもあの論に賛成した人に對してゞある。

◇一は四五人の作家の稿料が高すぎるからもつと減じていゝ、といふのであるが、これに對しては、四五人を減じるよりも、それ以外の人をもつと高くしては何うかといふ論法と、一二種の雜誌の外、こんな稿料は支拂はないから全文こゝから出發しては論に成らないといふ事と、その高い稿料を支拂へる雜誌は支拂つていゝだけ儲けてゐるのだから、四五人の稿料を減じたとて、雜誌屋がその餘剩を四五人以外の人に施さない以上、むしろもつと高くとつて適當に散じた方がいゝで無いか、とでも云へば春夫の論は破れてゐる。「要求しさへすれば二十圓はくれる」といふ、狡るい雜誌屋を對手に、稿料を安くしたつて、誰の利益になるといふのか?

◇二の最初は論にならない。「社會全體に文藝の教養が行屆かないため今日文學面をしてをれる」といふのは、稿料を安くすれば文藝的教養が普及するといふ結論にならないから問題にしないでをく。次の「稿料が他の職業に對して高すぎる」といふのは何の職業に對してだか判らない、假に藝術家をとつてみると、俳優に較べて文學者が高いといふのか?一幅數萬金になる畫家に較べて一枚二十圓で高いのか。ぢつとしてをれば、だん/\日給が昇り、恩給がついたりする會社員、官吏に較べて、四五人の一流作家が五六年間二種の雜誌から月二十枚に對して二十圓づゝ取るのが不當だといふのか?親讓りの金で好みの家を建てゝゐる春夫など「他の職業」の事が判つてゐるのか何うか、無暗に「他の職業」に較べてゐるが、何を標準に收入の過不足を云ふのか見當がつかない。

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