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TORENDIA

勝負事

本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

勝負事を厳しく戒める父のもとで育った語り手が、その背景にある一家の過去を回想する。かつて庄屋であった祖父は賭博に溺れ、財産を全て失って没落した。祖母の臨終の懇願により改心した祖父は、晩年を小作人として過ごすが、ある日、幼い孫を相手に藁を使って遊ぶ姿が語られる。本書は、家を滅ぼした因縁の勝負事から遠ざかっていたかつての賭博打ちが、最晩年に見せた無邪気な一幕を回想し、祖父への複雑な心情を綴る。

菊池寛

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🎧 勝負事 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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勝負事ということが、話題になった時に、私の友達の一人が、次のような話をしました。

「私は子供の時から、勝負事というと、どんな些細なことでも、厳しく戒められて来ました。幼年時代には、誰でも一度は、弄ぶにきまっている、めんこ、ねっき、ばいなどというものにも、ついぞ手を触れることを許されませんでした。

『勝負事は、身を滅ぼす基じゃから、真似でもしてはならんぞ』と、父は口癖のように幾度も幾度も繰り返して私を戒めました。そうした父の懸命な訓戒が、いつの間にか、私の心のうちに勝負事に対する憎悪の情を培っていったのでしょう。小学校時代などには、友達がめんこを始めると、そっとその場から逃げ帰って来たほど、殊勝な心持でいたものです。

私の父が、いろいろな憎悪の中から、勝負事だけを、何故こんなに取り分けて戒めたかということは、私が十三、四になってから、やっと分かったことなのです。

私の家というのは、私が物心を覚えて以来、ずっと貧乏で、一町ばかりの田畑を小作して得るわずかな収入で、親子四人がかつかつ暮していたのです。

確か私が高等小学の一年の時だったでしょう。学校から、初めて二泊宿りの修学旅行に行くことになったのです。小学校時代に、修学旅行という言葉が、どんなに魅惑的な意味を持っているかは、たいていの人が、一度は経験して知っておられることと思いますが、私もその話を先生からきくと、小躍りしながら家へ帰って来ました。帰って両親に話してみますと、どうしても、行ってもいいとはいわないのです。

今から考えると、五円という旅費は、私の家にとっては、かなりの負担だったのでしょう。おそらく一月の一家の費用の半分にも相当した大金だったろうと思います。が、私はそんなことは、考えませんから、手を替え品を替え、父と母とに嘆願してみたのです。が、少しもききめがないのです。

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