正坊とクロ
本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
村々を巡業する小さなサーカス団に属する少年正坊と、芸をする熊のクロは、互いに深く信頼し合う仲である。正坊の足の怪我や団の解散により一度は離れ離れになる二人だが、離れて暮らしても互いを思い続ける。その後、動物園の檻の中で力なく過ごしていたクロのもとへ、定休日に正坊が会いに行く。再会した二人は、共に親しんだ曲やビスケットを通じて、かつての絆を確かめ合う様子を描く。
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一
村むらを興行して歩くサーカス団がありました。十人そこそこの軽業師と、年をとった黒くまと馬二とうだけの小さな団です。馬は舞台に出るほかに、つぎの土地へうつっていくとき、赤いラシャの毛布などをきて、荷車をひくやくめをもしていました。
ある村へつきました。座員たちは、みんなで手わけして、たばこ屋の板かべや、お湯屋のかべに、赤や黄色ですった、きれいなビラをはって歩きました。村のおとなも子どもも、つよいインキのにおいのするそのビラをとりまいて、おまつりのようによろこびさわぎました。
テントばりの小屋がかかってから、三日めのお昼すぎのことでした。見物席から、わあっという歓声といっしょに、ぱちぱちと拍手の音がひびいてきました。すると、ダンスをおわったお千代さんが、うすももいろのスカートをひらひらさせて、舞台うらへひきさがってきました。つぎは、くまのクロが出る番になっていました。くまつかいの五郎が、ようかん色になったビロードの上着をつけ、長ぐつをはいて、シュッシュッとむちをならしながら、おりのそばへいきました。
「さあ、クロ公、出番だ。しっかりたのむよ」
と、わらいながらとびらをあけましたが、どうしたのか、クロはいつものように立ちあがってくるようすが見えません。おやと思って、五郎がこごんでみますと、クロはからだじゅうあせだくになって、目をつむり、歯をくいしばって、ふといいきをついているのです。
「たいへんだ、団長さん。クロがはらいたをおこしたらしいです」
団長もほかの座員も、ドカドカとあつまってきました。五郎は団長とふたりがかりで、竹の皮でくるんだ、黒い丸薬をのませようとしましたが、クロはくいしばった口からフウフウあわをふきふき、首をふりうごかして、どうしても口をひらきません。しばらくして、ピリピリッとおなかのあたりが波をうったと思いますと、クロは四つんばいになって、おりの中をこまのようにくるいまわりました。それから、わらのとこにドタリとたおれて、ふうッと大きくいきをふいて、目をショボショボさせています。