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TORENDIA

子規の画

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

亡友・子規が描いた一輪の東菊の画をめぐり、その制作過程や絵筆の跡から友の人間像を考察する随筆。熊本にいた頃、子規から贈られたこの画を長年保管していた著者は、表装を機に改めて対峙する。極めて単簡な図柄ながら、膨大な時間をかけて丹念に塗り上げられたその拙い筆致の中に、俳句や歌で才を揮った友の「愚直さ」を見出し、文学者・子規の意外な側面と、画に漂う淋しさについて論じる。

夏目漱石

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🎧 子規の画 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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余は子規の描いた画をたった一枚持っている。亡友の記念だと思って長い間それを袋の中に入れてしまっておいた。年数の経つに伴れて、ある時はまるで袋の所在を忘れて打ち過ぎる事も多かった。近頃ふと思い出して、ああしておいては転宅の際などにどこへ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へやって懸物にでも仕立てさせようと云う気が起った。渋紙の袋を引き出して塵を払いて中を検べると、画は元のまま湿っぽく四折に畳んであった。画のほかに、無いと思った子規の手紙も幾通か出て来た。余はその中から子規が余に宛てて寄こした最後のものと、それから年月の分らない短いものとを選び出して、その中間に例の画を挟んで、三つを一纏めに表装させた。

画は一輪花瓶に挿した東菊で、図柄としては極めて単簡な者である。傍に「是は萎み掛けた所と思い玉え。下手いのは病気の所為だと思い玉え。嘘だと思わば肱を突いて描いて見玉え」という註釈が加えてあるところをもって見ると、自分でもそう旨いとは考えていなかったのだろう。子規がこの画を描いた時は、余はもう東京にはいなかった。彼はこの画に、東菊活けて置きけり火の国に住みける君の帰り来るがねと云う一首の歌を添えて、熊本まで送って来たのである。

壁に懸けて眺めて見るといかにも淋しい感じがする。色は花と茎と葉と硝子の瓶とを合せてわずかに三色しか使ってない。花は開いたのが一輪に蕾が二つだけである。葉の数を勘定して見たら、すべてでやっと九枚あった。それに周囲が白いのと、表装の絹地が寒い藍なので、どう眺めても冷たい心持が襲って来てならない。

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