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TORENDIA

春の鳥

本文約7,500字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

ある地方の城下町で英語と数学の教師をしていた語り手は、城山で出会った白痴の少年・六蔵と知り合う。やがて語り手は六蔵の住む旧家で下宿することとなり、その家族の懇願を受けて六蔵の教育を試みる。散歩の折に鳥を好む六蔵を見守るうち、ある日、少年は城山の石垣から転落する。残された母親と語り手は、六蔵の生涯や白痴という境遇、そして生命のあり方に深い哀しみを抱きながら、死後の幸福について思いを巡らせる。

国木田独歩

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🎧 春の鳥 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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一

今より六七年前、私はある地方に英語と数学の教師をしていたことがございます。その町に城山というのがあって、大木暗く茂った山で、あまり高くはないが、はなはだ風景に富んでいましたゆえ、私は散歩がてらいつもこの山に登りました。

頂上には城あとが残っています。高い石垣に蔦葛がからみついて、それが真紅に染まっているあんばいなど得も言われぬ趣でした。昔は天主閣の建っていた所が平地になって、いつしか姫小松まばらにおいたち、夏草すきまなく茂り、見るからに昔をしのばす哀れなさまとなっています。

私は草を敷いて身を横たえ、数百年斧の入れたことのない欝たる深林の上を見越しに、近郊の田園を望んで楽しんだことも幾度であるかわかりませんほどでした。

ある日曜の午後と覚えています、時は秋の末で、大空は水のごとく澄んでいながら野分吹きすさんで城山の林は激しく鳴っていました。私は例のごとく頂上に登って、やや西に傾いた日影の遠村近郊をあかく染めているのを見ながら、持って来た書物を読んでいますと、突然人の話し声が聞こえましたから石垣の端に出て下を見おろしました。別に怪しい者でなく三人の小娘が枯れ枝を拾っているのでした。風が激しいので得物も多いかして、たくさん背中にしょったままなおもあたりをあさっている様子です。むつまじげに話しながら、楽しげに歌いながら拾っています、それがいずれも十二三、たぶん何村あたりの農家の子供でしょう。

私はしばらく見おろしていましたが、またもや書物のほうに目を移して、いつか小娘のことは忘れてしまいました。するとキャッという女の声、驚いて下を見ますと、三人の子供は何に恐れたのか、枯れ木を背負ったままアタフタと逃げ出して、たちまち石垣のかなたにその姿を隠してしまいました。おかしなことと私はその近所を注意して見おろしていると、薄暗い森の奥から下草を分けながら、道もない所をこなたへやって来る者があります。初めは何者とも知れませんでしたが、森を出て石垣の下に現われたところを見ると、十一か十二歳と思わるる男の子です。紺の筒袖を着て白もめんの兵児帯をしめている様子は百姓の子でも町家の者でもなさそうでした。

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