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TORENDIA

半七捕物帳

本文約17,100字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

徳川幕府の命を受け、諸大名の領地へ潜入して国情を探る隠密の役目を、吹上の御庭番が担う背景を語る。江戸の侍・間宮鉄次郎は、旅絵師・山崎澹山と名を変え、奥州へ潜入する。道中で豪商・千倉屋の娘を救ったことを機に、彼は千倉屋に身を寄せつつ隠密の務めを果たすことになるが、現地で起きた娘の殺害事件や領内の不穏な空気の中、己の正体を隠したまま困難な任務の遂行に苦悩する様子を描く。

岡本綺堂

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一

「江戸時代の隠密というのはどういう役なんですね」と、ある時わたしは半七老人に訊いた。

「芝居や講釈でも御存知の通り、一種の国事探偵というようなものです」と、老人は答えた。「徳川幕府で諸大名の領分へ隠密を入れるというのは、むかしから誰も知っていることですが、その隠密は誰がうけたまわって、どういう役目を勤めるかということがよく判っていないようです。この隠密の役目を勤めるのは、江戸城内にある吹上の御庭番で、一代に一度このお役を勤めればいいことになっていました。

なぜ御庭番がこのお役を勤めることになったかというと、それにはいろいろの説がありますが、三代将軍家光公がある時、吹上の御庭をあるいている時に、御庭番の水野なにがしというのを呼んで、これからすぐに薩摩へ下って、鹿児島の城中の模様を隠密に見とどけてまいれと、将軍自身に仰せ付けられたので、水野はその隠密の洩れるのを恐れて、自分の屋敷へ帰らずにお城からまっすぐに九州へ下ったということです。水野が庭作りに化けて薩摩へ入り込んで、城内の蘇鉄の根方に手裏剣を刺し込んで来たというのは有名な話ですが、嘘だかほんとうだか判りません。とにかくそれが先例になって、隠密の役はいつも吹上の御庭番が勤めることになったのだと、江戸時代ではもっぱら云い伝えていました。御庭番は吹上奉行の組下で若年寄の支配をうけていましたが、隠密の役に限ってかならず将軍自身から直接に云い付けられるのが例となっているので、御庭番はさして重い役ではありませんが、隠密の役は非常に重いことになっていました。

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