隣の嫁
本文約23,100字 ・ 読了時間 約47分
あらすじ(AIが作成しました)
十九歳の省作は慣れない農作業に疲れ果て、心身の痛みに苦しんでいた。隣家に住むおとよは、愛情のない結婚生活のなかで省作に惹かれ、二人は密かに想いを寄せ合うようになる。やがて省作に縁談が持ち上がり、二人は引き裂かれる運命を迎える。ままならぬ世の理不尽さを抱えながら、おとよは夫のもとを去り、省作もまた養子先との縁談が破談となる。隣り合う二人の淡い恋と、その苦しい顛末を描く。
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一
「満蔵満蔵、省作省作、そとはまっぴかりだよ。さあさあ起きるだ起きるだ。向こうや隣でや、もう一仕事したころだわ。こん天気のえいのん朝寝していてどうするだい。省作省作、さあさあ」
表座敷の雨戸をがらがらあけながら、例のむずかしやの姉がどなるのである。省作は眠そうな目をむしゃくしゃさせながら、ひょこと頭を上げたがまたぐたり枕へつけてしまった。目はさめていると姉に思わせるために、頭を枕につけていながらも、口のうちでぐどぐどいうている。
下部屋の戸ががらり勢いよくあく音がして、まもなく庭場の雨戸ががらがら二、三枚ずつ一度に押しあける音がする。正直な満蔵は姉にどなられて、いつものように帯締めるまもなく半裸で雨戸を繰るのであろう。
「おっかさんお早うございます。思いのほかな天気になりました」
満蔵の声だ。
「満蔵、今日は朝のうちに籾を干すんだからな、すぐ庭を掃いてくれろ」
姉はもう仕事を言いつけている。満蔵はまだ顔も洗わず着物も着まいに、あれだから人からよく言われないだなどと省作は考えている。この場合に臨んではもう五分間と起きるを延ばすわけにゆかぬ。省作もそろそろ起きねばならんでなお夜具の中でもさくさしている。すぐ起きる了簡ではあるが、なかなかすぐとは起きられない。肩が痛む腰が痛む、手の節足の節共にきやきやして痛い。どうもえらいくたぶれようだ。なあに起きりゃなおると、省作は自分で自分をしかるようにひとり言いって、大いに奮発して起きようとするが起きられない。またしばらく額を枕へ当てたまま打つ伏せになってもがいている。
全く省作は非常にくたぶれているのだ。昨日の稲刈りでは、女たちにまでいじめられて、さんざん苦しんだためからだのきかなくなるほどくたぶれてしまった。
「百姓はやアだなあ……。ああばかばかしい、腰が痛くて起きられやしない。あアあア」
省作はなお起きかねて家の者らの気はいに耳を澄ましている。