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TORENDIA

槍ヶ岳第三回登山

本文約5,000字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

赤沢小舎を出発した一行は、案内役の嘉門次とともに槍ヶ岳を目指す。雪渓が広がる谷間を抜け、岩や雪の険しい断裂を越えて標高を上げる。霧に包まれ表情を変える山々を望みながら、登山隊は殺生小舎を経由し、切り立つ岩角を辿って山頂に到達する。絶壁の先に槍の穂先がそびえる山頂から、周囲の山脈が雲海に浮かぶ壮大な光景を見渡し、一行は山々の激しい気象と自然の圧迫感を全身で受け止める。

小島烏水

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🎧 槍ヶ岳第三回登山 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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雨で閉じこめられた、赤沢小舎の一夜が明ける。前の日、常念岳から二の股を下りて、私たちの一行より早く、この小舎に着いていられた冠君は、今朝も早く仕度を済まされ、「お先へ」と言って、人夫どもを連れて出て行かれる、「若い衆天幕取れやい」と嘉門次の号令がかかる、天幕を組み立てた糸がスルスルと手繰られて、雫のポタポタする重い油紙が、跪まずくように岩盤の上に折り重なる、飯を炊いだあとの煙が、赤樺の梢を絡んで、心臓形に尖った滑らかな青葉を舐めて、空へって行く、その消えぎえの烟の中から、人夫が一人ずつ、荷をしょっては、ひょッくり、あらわれる、嘉門次の愛犬「コゾー」もこの登山隊の一員として交っている。

嘉門次が一行の案内を務めるのは、言うまでもない、雨でグッショリ濡れた青草や、仆れている朽木からは、人の嗅覚をそそるような古い匂いがして、噎びそうだ、足が早いので、一丁も先になった嘉門次は、私を振り返って「他所の人足は使いづらくて困る」とブツブツ言いながら、赤石の河原に出た。

見上げる限り、花崗の岩壁が聳えて、その壁には白い卓子懸けのような雪が、幾反も垂れている、若緑の樺の木は、岩壁の麓から胸まで、擦り切れるようになった枝を張りつめて、その間から白雪が、細い斑を引いている、この川は小舎のうしろへ流れ落ちるのだそうだ、水から飛び上った鶺鴒が、こっちを見ていたが、人が近づいたので、ついと飛ぶ、大石の上には水で描いた小さな足痕が、紋形をして、うす日に光っている。

馬場平(宛字)というところへ来ると、南北の両側に、雪が築き上げられたように多くて、高さは一丈もあろう、それが表面は泥で帆木綿のように黒くなっているが、その鍵裂きの穴からは、雪の生地が梨の肌のように白く、下は解けて水になっている、その水の流れて行くところは、雪の小さい峡間を開いて、ちょろちょろと音をさせている。

右の方を仰ぐと、赤沢岳が無器用な円頂閣のように、幅びろく突ッ立って、その花崗岩の赤く禿げた截断面が、銅の薬鑵のような色をして、冷めたく荒い空気に煤ぶっている。

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