本文へ移動
TORENDIA

とっこべとら子

本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

大きな川の岸に住む狐・とっこべとら子は、夜道を通る人々から物を盗む悪戯者として知られる。ある夜、欲深い六平は侍に化けた狐に金貸しを頼まれ、重い千両箱を夢中で運ぶが、家に着くとそれは砂利俵であった。また、平右衛門の祝宴の帰り道、狐は再び人々の前に現れ、襲いかかる平右衛門らの追及を巧みに逃れる。狐という存在を巡る、古くから伝わる怪異と、現代に起きた不思議な出来事を綴る物語。

宮沢賢治

速度
🎧 とっこべとら子 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 5

おとら狐のはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。

「とっこべ」というのは名字でしょうか。「とら」というのは名前ですかね。そうすると、名字がさまざまで、名前がみんな「とら」という狐が、あちこちに住んでいたのでしょうか。

さて、むかし、とっこべとら子は大きな川の岸に住んでいて、夜、網打ちに行った人から魚を盗ったり、買物をして町から遅く帰る人から油揚げを取りかえしたり、実に始末におえないものだったそうです。

慾ふかのじいさんが、ある晩ひどく酔っぱらって、町から帰って来る途中、その川岸を通りますと、ピカピカした金らんの上下の立派なさむらいに会いました。じいさんは、ていねいにおじぎをして行き過ぎようとしましたら、さむらいがピタリととまって、ちょっとそらを見上げて、それからあごを引いて、六平を呼び留めました。秋の十五夜でした。

「あいや、しばらく待て。そちは何と申す」

「へいへい。私は六平と申します」

「六平とな。そちは金貸しを業と致しおるな」

「へいへい。御意の通りでございます。手元の金子は、すべて、只今ご用立致しております」

「いやいや、拙者が借りようと申すのではない。どうじゃ。金貸しは面白かろう」

「へい、御冗談、へいへい。御意の通りで」

「拙者に少しく不用の金子がある。それに遠国に参る所じゃ。預かっておいてもらえまいか。もっとも拙者も数々敵を持つ身じゃ。万一途中相果てたなれば、金子はそのままそちに遣わす。どうじゃ」

「へい。それはきっとお預かりいたしまするでございます」

「左様か。あいや。金子はこれにじゃ。そち自ら蓋を開いて一応改めくれい。エイヤ。はい。ヤッ」さむらいはふところから白いたすきを取り出して、たちまち十字にたすきをかけ、ごわりと袴のもも立ちを取り、とんとんとんと土手の方へ走りましたが、ちょっとかがんで土手のかげから、千両ばこを一つ持って参りました。

宮沢賢治の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本