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TORENDIA

葡萄水

本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

野原へ葡萄採りに出かけた耕平は、大量の葡萄を収穫し帰宅する。家族と共にその葡萄を潰して汁を絞り、砂糖を加えて瓶に詰め、床下に貯蔵する。数日後、遠方から響く爆発のような音を不思議に思いながら耕平が床下を確認すると、発酵した葡萄水が瓶から弾け飛び、あふれ出していた。計画通りにいかなかった事実に直面した耕平の姿を描く。

宮沢賢治

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🎧 葡萄水 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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(一)[#「(一)」は縦中横]

耕平は髪も角刈りで、おとなのくせに、今日は朝から口笛などを吹いてゐます。

畑の方の手があいて、こゝ二三日は、西の野原へ、葡萄をとりに出られるやうになったからです。

そこで耕平は、うしろのまっ黒戸棚の中から、兵隊の上着を引っぱり出します。

一等卒の上着です。

いつでも野原へ出るときは、きっとこいつを着るのです。

空が光って青いとき、黄いろなすぢの入った兵隊服を着て、大手をふって野原を行くのは、誰だっていゝ気持ちです。

耕平だって、もちろんです。大きげんでのっしのっしと、野原を歩いて参ります。

野原の草もいまではよほど硬くなって、茶いろやけむりの穂を出したり、赤い実をむすんだり、中にはいそがしさうに今年のおしまひの小さな花を開いてゐるのもあります。

耕平は二へんも三べんも、大きく息をつきました。

野原の上の空などは、あんまり青くて、光ってうるんで、却って気の毒なくらゐです。

その気の毒なそらか、すきとほる風か、それともうしろの畑のへりに立って、玉蜀黍のやうな赤髪を、ぱちゃぱちゃした小さなはだしの子どもか誰か、とにかく斯う歌ってゐます。

「馬こは、みんな、居なぐなた。

仔っこ馬もみんな随いで行た。

いまでぁ野原もさぁみしん[#「ん」は小書き]ぢゃ、

草ぱどひでりあめばがり。」

実は耕平もこの歌をききました。ききましたから却って手を大きく振って、

「ふん、一向さっぱりさみしぐなぃんぢゃ。」と云ったのです。

野原はさびしくてもさびしくなくても、とにかく日光は明るくて、野葡萄はよく熟してゐます。そのさまざまな草の中を這って、真っ黒に光って熟してゐます。

そこで耕平は、葡萄をとりはじめました。そして誰でも、野原で一ぺん何かをとりはじめたら、仲々やめはしないものです。ですから耕平もかまはないで置いて、もう大丈夫です。今に晩方また来て見ませう。みなさんもなかなか忙がしいでせうから。

(二)[#「(二)」は縦中横]

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