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TORENDIA

赤い貨車

本文約34,700字 ・ 読了時間 約70分

あらすじ(AIが作成しました)

ロシアの村で暮らすナースチャは、動かない貨車の列が並ぶ荒野や未完成の堤防を眺めて日々を過ごす。仕立屋の伯母の家で働き、夜は孤独な台所で過ごす彼女は、亡き母から受け継いだ目鼻のない聖像に祈りを捧げる。ある夜、夜遅くに帰宅したオルロフから熱い茶を求められたナースチャは、窓の外に降る粉雪を眺めながら、パン工場の燈火を見つめ、厳しい現実に生きる一人の女性の孤独とささやかな心の安らぎを描く。

宮本百合子

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一

そこは広い野原で、かなたに堤防が見えた。堤防のかなたに川があるのではなく、やはり野原で、轍の跡が深く泥濘にくいこんだ田舎道が、堤防の橋の下をくぐったさきにつづいて見えた。工事のはじめから堤防は大きな空の下で弓なりに野をはい、多分愉快な自動車道にでもなるわけらしかった。革命の時、工事が中止された。それ以来いつになっても働く人間の姿は見えず、ある個所は橋をかけるように堤防と堤防とをきりはなしたまま、鉄橋はなかった。村に近いところでは、すでに堤防の砂がくずれた。未完成な堤防になれた子供たちがそこを駈けのぼったり駈け下りたりした。山羊が高いところで白い腹の毛を風に吹かせていることもある。

ナースチャは、伯母の家へすむようになってから、ずっとこの堤防を見馴れていた。しかしナースチャ自身は、一度も堤防によじのぼったことはなかった。遠くから眺めて、時々、いい景色で心持がよいと思った。そういう気質は、ナースチャの死んだ親父が彼女のうちへのこして行ったものだ。

野原のなかに、もう一つ動かず毎日ナースチャの目に映るものがあった。それは堤防とは反対側の野のかなたの果にある貨車の列だ。貨車は八台見えた。七月の太陽に暑そうな赫土色に光って見えた。一日じゅう貨車は動かないままでいた。それに気づいた時、ナースチャはなんだか楽しみな心持で、元気づいた。――あの貨車はいつ動き出すのだろう。このうねをきってしまうのとどちらが早いか。

ナースチャは、ジャガいも畑でさくりをきっているのであった。畑は本物の畑とは云えなかった。少し深く掘ると腐った薬罐の破片だの罐詰の空罐だのの出て来る原っぱの端だが、その地面の草を四角くむしって仕立屋の伯母がジャガいもを作っているのだ。

鍬のいやに根っこのところを握って、白いプラトークを頭にかぶったナースチャは地面を掘りかえしつづけた。掘られた土は冷やりナースチャの裸足の甲にかかり、あたりには暑い草いきれと微かな土の匂いとがした。ナースチャの桃色木綿の裾に風が吹いた。

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