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TORENDIA

はしがき(『女靴の跡』)

本文約660字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

一九三三年からの約十二年間、表現の自由を奪われ、真実を語ることをはばまれた作家たちが経験した苦しい境遇を振り返る。小説や評論が制限される中で流行した随筆について、人間の生活と芸術の尊厳を求めた側面を考察する。本書は、太平洋戦争中の未発表ノートや芝居を主題とした作品など、発表の機会を求めて書きためた随筆群を収める。時代の閉塞感の中で、いかにして芸術のまともさを守り、希望の閃きを維持しようとしたかを綴る。

宮本百合子

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🎧 はしがき(『女靴の跡』) / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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一九三三年ごろから最近までの十二、三年の間日本の文学者たちの経験したさまざまの苦しい境遇は、ほんとうに日本の全人民の辛苦と共通なものであった。みんなが、自分の思うこと、正しいと信じる自分の判断について、口をふさがれていたとおり、作家もあらゆる率直な表現をはばまれて来た。小説が、真実に人民的な歴史を映すテーマで書けなかったように、評論も客観的なよいところを抹殺されて、文芸評論でさえ、文学史を逆行した鑑賞批評しか存在を許されなかった。その時代に一つの現象として随筆の流行が見られた。いろいろ個性的な色彩をもった随筆がうかがわれたが、その中には、一応随筆の体裁をもちながらも、その奥には何となく魚のような背骨をひそめていて、小さくても弱くても、人間の生活と芸術のまともさを守り、その希望の閃きを見失うまいとした随筆もあった。評論も小説も、自分にとって自然な形で書けなかった何年かの間に、わたしがいくつかの随筆のようなものをかきはじめたきっかけには、そういうところもあった。

こんどはじめて、随筆集という形で一冊の本にまとまるにつけて『明日への精神』や『私たちの生活』に収録されている随筆のうちからいくつかを選び「郵便切手」そのほかの最近書いたものに、未発表のいくつかを加えた。「兄と弟」「書簡箋」「ベリンスキーの眼力」などは太平洋戦争中、作品の発表できなかった時分のノートから。「真夏の夜の夢」「デスデモーナのハンカチーフ」「復活」などは、珍しく芝居につき、この集のために新しく書いた。

一九四七年十二月

〔一九四八年二月〕

完

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