本文へ移動
TORENDIA

踊る地平線

本文約26,700字 ・ 読了時間 約54分

あらすじ(AIが作成しました)

ロンドンの高級住宅街メイフェアで、俳優の市村羽左衛門を訪ねる旅人と、常に安らげる家を求めて下宿を転々とする青年・小野の姿を描く。伝統を守るメイフェアの街並や在外日本人の生活、そしてジョージ・バーナード・ショウの動静といった、異国にある日本の気配と人々の群像を鮮やかに写し出す。

谷譲次

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 34

アイチミュラ・羽左衛門

『ミスタ・ウザエモン・イチムラ――有名な日本の俳優がここに泊っているはずですが、いまいらっしゃいましょうか?』

あちこち動きまわっている番頭たちのなかから、やっとのことでひとりの注意を捉え得た私は、せいの高い帳場の台ごしに上半身を乗り出して、「有名な」に力を入れてどなるようにこう訊いた。

相手の番頭というのは、縞ずぼんに黒の背広を着た、いかにも英吉利のホテルのクラアクらしい五十がらみの赤毛の男である。場処は倫敦ピカデリイのパアク・レイン・ホテル――午前十時。

六月末の蒸暑い曇った日で、戸外の、世紀的に古いロンドンの雑沓を貫いて、まえのピカデリイを走る自動車の警笛が、しっきりなしに、それでいて妙に遠く聞えている。

谷譲次の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本