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TORENDIA

夾竹桃の家の女

本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

デング熱の病み上がりでパラオの道を歩く私は、暑さと疲労から夾竹桃の咲く島民の家で休息をとる。家の中には赤ん坊を抱いた若い女が一人おり、私をじっと見つめ続ける。熱帯の湿気と香りに包まれ、異様な雰囲気に魅了されそうになるが、身体の疲労と姿勢を変えたことをきっかけにその場を離れる。後日、激しいスコールの直後、女と道ですれ違うものの、彼女は私を認めず何事もなかったかのように通り過ぎていく様子を描く。

中島敦

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🎧 夾竹桃の家の女 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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午後。風がすつかり呼吸を停めた。

薄く空一面を蔽うた雲の下で、空気は水分に飽和して重く淀んでゐる。暑い。全く、どう逃れようもなく暑い。

蒸風呂にはひり過ぎた様なけだるさに、一歩一歩重い足を引摺るやうにして、私は歩いて行く。足が重いのは、一週間ばかり寝付いたデング熱がまだ治り切らないせゐでもある。疲れる。呼吸が詰まるやうだ。

眩暈を感じて足をとゞめる。道傍のウカル樹の幹に手を突いて身体を支へ、目を閉ぢた。デングの四十度の熱に浮かされた時の・数日前の幻覚が、再び瞼の裏に現れさうな気がする。其の時と同じ様に、目を閉ぢた闇の中を眩い光を放つ灼熱の白金の渦巻がぐるぐると廻り出す。いけない! と思つて直ぐに目を開く。

ウカル樹の細かい葉一つそよがない。肩甲骨の下の所に汗が湧き、それが一つの玉となつて背中をツーツと伝はつて行くのがはつきり判る。何といふ静けさだらう! 村中眠つてゐるのだらうか。人も豚も鶏も蜥蜴も、海も樹々も、咳き一つしない。

少し疲れが休まると、又歩き出す。パラオ特有の滑らかな敷石路である。今日のやうな日では、島民達のやうに跣足で此の石の上を歩いて見ても、大して冷たくはなささうだ。五六十歩下りて、巨人の頬髯のやうに攀援類の纏ひついた鬱蒼たる大榕樹の下迄来た時、始めて私は物音を聞いた。ピチヤ/\と水を撥ね返す音である。洗身場だなと思つて傍を見ると、敷石路から少し下へ外れる小径がついてゐる。巨大な芋葉と羊歯とを透かしてチラと裸体の影を見たやうに思つた時、鋭い嬌声が響いた。つづいて、水を撥ね返して逃出す音が、忍び笑ひの声と交つて聞え、それが静まると、又元の静寂に返つた。疲れてゐるので、午後の水浴をしてゐる娘共にからかふ気も起らない。又、緩やかな石の坂道を下り続ける。

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