悲しめる心
本文約15,900字 ・ 読了時間 約32分
あらすじ(AIが作成しました)
病気療養のため福島の祖母の家で過ごしていた姉は、突然届いた妹の危篤を知らせる電報により東京への帰路につく。妹の容態に不安を抱えながら列車に揺られる中、幼い頃からの思い出や妹への愛情が次々と去来する。本作は、妹を失った喪失感と深い悲しみを抱える姉が、その切ない胸の内を綴る記録である。亡き妹への追悼として、生前の姿や死にゆく過程での心の葛藤、そして残された者の心情を克明に描く。
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我が妹の 亡き御霊の 御前に
只一人の妹に先立たれた姉の心はその両親にも勝るほど悲しいものである。
手を引いてやるものもない路を幼い身ではてしなく長い旅路についた妹の身を思えば涙は自ずと頬を下るのである。
今私の手元に残るものとては白木の御霊代に書かれた其名と夕べ夕べに被われた夜のものと小さい着物と少しばかり――それもこわれかかった玩具ばかりである。
柩を送ってから十三日静かな夜の最中に此の短かいながら私には堪えられないほどの悲しみの生んだ文を書き上げた。
これを私は私のどこかの身にそって居る我が妹の魂に捧げる。
仕立て上げて手も通さずにある赤い着物を見るにつけ桃色の小夜着を見るにつけて歎く姉の心をせめて万が一なりと知って呉れたら切ない思い出にふける時のまぼろしになり夢になり只一言でも私のこの沈み勝な心を軽く優しくあの手さな手で撫でても呉れる事だろう。
あの細い腕を私の首に巻いて自分の胸にあの時の様に抱きしめても呉れるだろう。
はかないその日のうれしさを今か今かと涙ながらに待ちながら――
大正三年九月二十六日
こよなく尊き 宝失える 哀れなる姉 小霧降り虫声わびて
我が心悲しめる
夜の最中
(一)
私は丁度その頃かなりの大病をした後だったので福島の祖母の家へ行って居た。
貧しいそいで居て働く事のきらいな眠った様なその村の単調な生活に少しあきて来かかった十日目の夜思いがけず東京から妹が悪いと云う電報を得た。
ふだん丈夫な児の事ではあるし前々日に出した手紙に一言も病気については云ってないので祖母はどうしても信じなかった。その二日ほど前から女中が病気で実家に行って居たので私がなりかわって水仕事やふき掃除をして最初の日に二箇所の傷を作った。
働くのが辛いからそう云っちやって電報を打つ様にさせたんだろうなどと祖母が云ったりした。
もう三日ほどしたらと思って居たのを急に早めて翌日の一番で立つ事にした。
「お前が行ったって死ぬものははあ死ぬべーっちぇ。
いろいろに引きとめるのをきかないで私は手廻りのものを片づけたり、ぬいだまんま衣桁になんかかけて置いた浴衣をソソクサとたたんだりした。