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TORENDIA

無題(一)

本文約20,400字 ・ 読了時間 約41分

あらすじ(AIが作成しました)

雪の降る森で迷った十六歳未満の詩人は、気高い姿の女に助けられ、白い煉瓦の家で暖かなもてなしを受ける。詩人はその後、美しい姉のローズと再会し、夜の静寂の中で即興の詩を交わす。しかし、詩人の抱く孤独や死への予感と、彼を守ろうとするローズの不安が交錯し、森の女の記憶が不穏な影を落とす。詩と夢、そして二人の絆が重なる中で、詩人は未知なる運命と内面的な変容に向き合っていく。

宮本百合子

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旅人はまだ迷って居ます。暗い森から暗い森の中へと、雪は一寸もやまず木々の梢と落葉のつもった地面とをせっせとお化粧をして居ます。まだ十六にみたない若い旅人は母の最後にくれたキッスと村はずれまで送って呉れた小さい小鳥のように美くしい女の笑顔を思い出して身ぶるいをしながら歩いて居ます。暗い暗い森は中々つきそうにもありませんでした。遠く遠くつづいて「どっちが西でどっちが東かしら、私はどっちに行ったら彼の美くしい国に行かれるのかしら」。旅人は八十になる白い頭巾をかぶって大キイ目鏡をかけた祖母に教えられてその住む村から七里西にある水の青い山の紫な乙女の頬の美くしい国へ歌枕さぐりに行くんです。細い小さい雪はかたまって大きい形になって落ちて来ます。

みどり色のこいマントの上、赤い帽子の上とそしてやわらかで赤い長靴の上をポトリポトリとしめして行きます。頬はさむい風に吹かれて光をもって赤く、黄金色の毛は赤い帽子をもれてゆるく波をうってかたにかかって居ます。バラを一ひらつんで置いたような唇はキッとむすばれて時々かすかに歯をあらわして雪の詩をうたって居ます。若い旅人は若々しい情のある血のような詩をうたう人です。森の中に深く迷い入って困って居ながらも白銀のような粉雪を讚美するのを忘れませんでした。葉をふるいおとされて箒のようになって立って居る楢の木のしげみが段々まばらになって木こりのらしい大きながんじょうな靴のあとが見出されました。赤い唇は遠慮なくひらかれて「村に出た出た」と云いました。眼は一層大きく開かれて足元は定まって居ませんでした。「アア、村――村」小さいみどりの体は白い雪の中に一つ線をひきました。村に出た気のゆるみのためでしょう。けれ共、おこす人もなければなぐさめる人もありません。森から出た許の所、しかも雪の深い日ですもの。向うの遠い所から人が来ます。男じゃあありません。髪の長い美くしい白い着物の人です。スーとそばに来ました。そしてひざまずいて白いやさしい手で頭をかるくこすって青ざめた頬にべに色の頬をよせました。

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