本文へ移動
TORENDIA

獄中への手紙

本文約14,900字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

牛込区富久町の市ヶ谷刑務所に収監されている宮本顕治へ向けて、上落合に住む妻の百合子が近況を綴る。叔父との面会や親族の動向、新しい住まいでの日々の暮らし、執筆活動の近況などを報告する。獄中の夫を気遣いながら、自身の健康や生活環境、文学に対する自らの考えを率直に書き連ね、再会を願いつつ手紙を書き進めていく様子を描く。

宮本百合子

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 19

十二月八日 〔牛込区富久町一一二市ヶ谷刑務所の宮本顕治宛 淀橋区上落合二ノ七四〇より(封書)〕

第一信。 (不許)[自注1]

これは何と不思議な心持でしょう。ずっと前から手紙をかくときのことをいろいろ考えていたのに、いざ書くとなると、大変心が先に一杯になって、字を書くのが窮屈のような感じです。

先ず、心からの挨拶を、改めて、ゆっくりと。――

三日におめにかかれた時、自分で丈夫だと云っていらしったけれども、本当は余り信用出来なかったのです。叔父上[自注2]が、顔から脚から押して見てむくんでいないと仰云ったので、それでは本当かと、却ってびっくりしたほどです。それにしても体がしっかりしていらっしゃるのは何よりです。私とは勿論くらべものにはならないけれども、私は一月から六月中旬までの間に相当妙な調子になって、やっとこの頃普通にかえりましたから信用しなかったのも全く根拠のないことではないわけです。

叔父上は十二月六日に林町[自注3]にお出でになり父[自注4]にも会われ、いろいろのお話を伺いました。さしいれのこと、弁護士のこと、毛糸であんだ足袋のこと、いろいろ承知いたしました。お弁当のこと、弁護士のことは、大体私もそのように考えて居りましたから御安心下さい。籍のこと[自注5]ももう余程前からの話なのですが、やっと今度お話になられ、私も非常に満足です。あなたも其を当然のことと感じて、御返事下すったということはこれも亦私にとっては様々の意味で愉快なことです。そういう私の心持はおわかりになるでしょう?

五日に叔父上のお会いになったときは、もうあの百日カズラに髯ボーボーではなかったってね。着物は先のままであったそうですが、今日あたりは差しいれたのが届いただろうと思って居ります。帯をしていらしったというけれど、それはどんな帯だったのか、私の入れたやすもののヘコ帯かしら。それとも違うのかしら、と叔父上に伺ったら「ヤアそれは気が付かざった!」と首をちぢめておいででした。

宮本百合子の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本