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TORENDIA

黒馬車

本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

宮部がチブスの疑いで床に伏し、家中の者たちは不安と恐怖に包まれる。主婦は看病を続けながらも、他人の息子を預かっている責任感から病院送りには踏み切れずにいた。やがて病状が悪化し、親元へ連絡が入り実父が駆けつける。周囲の人々が避病院への移送という現実に直面し、死と隣り合わせの閉塞感の中で、各自の困惑や心理的な葛藤が交錯する様子を描く。

宮本百合子

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🎧 黒馬車 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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時候あたりだろうと云って居た宮部の加減は、よくなるどころか却って熱なども段々上り気味になって来た。

地体夏に弱い上に、此の間どうしたのか頭の工合を悪くして三日ほど床について居た揚句にたべたかつおの刺身がさわったのだと云う事は確な事であった。

「まあほんとに不養生な、

白肉のでさえたべない様にして居るのにねえ。

あんなに云って置いたのをきかないからなんだよ。

と主婦は顔をしかめながら、例の人の難儀をすてて置かれない性分で早速、医者を迎えた。今じきにあがりますと云いながら、夕方になっても来て呉れないので、家の者は、書生が悪いと云ったので一寸逃れをして居るのだろう、お医者なんて不親切なものだなどと云い合って居た。

物に熱し易い娘は、

人の命の色分けはないじゃあありませんか、もう一度そう云って見ましょうよね。

若しそいで来なけりゃあ私云ってやる。

と怒った太い声を出して云ったりした。

手洗の水までそろえてまって居るのに来て呉れないので娘は到々催速の電話をかけた。

午前中からおたのみしてあるのに御都合がつきませんでしょうかと、あんまりいかめしい調子で云い迫ったので向うの奥さんらしい声はへどもどしながら、少し工合が悪くて横になって居るが、もうじきあがる様に申して居りましたと返事するのをきいて、常套手段の少々加減がを腹だたしく思わないわけには行かなかった。

夕飯の仕度にせわしい頃漸々来て呉れた医者は、

どうも、チブスの疑があると云って帰って行った。

家中の者は、万更思わぬではなかったけれども、こう明らさまに云い出されると、今更にはげしい不安におそわれて、どうぞそうなりません様にと思う傍ら、電の様に避病院の黒馬車と、白い床の中に埋まって居る瘠せほうけた宮部を一様に思い浮べて居た。

今まで通って居た便所に消毒薬を撒いたり、薬屋に□□錠の薄める分量をきいたりしてざわざわ落つきのない夜が更けると、宮部の熱は九度一分にあがってしまった。

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