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TORENDIA

掠奪せられたる男

本文約23,200字 ・ 読了時間 約47分

あらすじ(AIが作成しました)

山田は近所に住む秀子に魅了され、自らの意志を奪われ翻弄される日々を送る。ある日、秀子の庭に池が新設されたことに気づき、言葉を交わすうちに彼女への支配的な執着を深めていく。やがて入営の電報を受け取った山田は、運命の暴力に抗うような心持ちで彼女の元を訪れる。かつてない感情を露わにする秀子に対し、二人は互いの肉体を掴み合い、狂おしい争闘を繰り広げる。本作は、男が女との関係性の中で自己を喪失していく過程を描く。

豊島与志雄

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山田は秀子の方が自分を誘惑したのだと思っていた。そして自分の方では、彼女を恋したのだと自ら云うだけの勇気はなかった。恋しなくとも男は女の奴隷(或る意味での)になることはあるものである。然し、彼女の誘惑の罠に喜んで、いくらかは自ら進んで、引懸っていったのは自分であると、彼は思っていた。二階の縁側に立って自分の通るのをじっと見下していたのは彼女だ。然しいつもその二階をそっと見上げたのは自分だった。彼女の姿が其処にないと、淡い失望を覚えたのは自分だった。然し彼女はそういう時、恐らく自分のことなんか考えもしないで階下の室に寝転んでいたのであろう。だが、門口に立っていたのは彼女だ。危くその前に足を止めようとしたのは自分だった。そして蠱惑的な微笑を見せたのは彼女だ。その微笑に、胸の動揺を押し包んだ笑顔を返したのは自分だった。それから、途にハンケチを落したのは彼女だ。然しそれを拾い上げたのは自分だった。

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