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TORENDIA

轢死人

本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

鉄道に乗車中の「私」は、知人が目撃した、線路に寝そべって汽車に立ち向かった男の奇妙な話をする。話を聞く傍ら、自身の乗る列車は人里離れた場所で突如停車する。やがて乗客たちに轢死人の存在が知れ渡り、線路の脇には衝突によって胴体を失った女性の遺体の一部が放置される。列車が何事もなかったかのように出発した後も、車内に漂う異様な空気の中で、見聞きした光景が衝撃と共に「私」の意識に居座り続ける。

豊島与志雄

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🎧 轢死人 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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S君が私に次のような話をしてきかした。

「……そういうわけで、私の友人はその男の後からついて行ったそうです。而もその男というのが友人の知人なんです。常識で考えると一寸妙な話ですが、若々しい情熱に駆られてる頃には、知人の死をただじっと見送るようなこともあるらしいです。その気持ちを想像出来ないこともありませんね。まあ自殺の傍観的共犯者とでも云えるわけですね。で私の友人は、籔の後ろに隠れてその男の動作を見守っていたそうです。勿論向うはそれを知りません。畑の間をすたすたと歩いていって、鉄道の線路に着くと、其処に屈んで、頭を両手で抱えて、長い間じっとしていたそうです。それから、遠くに汽車の姿が見えると、いきなりレールの上に、長く寝てしまいました。汽車は次第に近づいてくる。男は身動きもしません。もう意識を失ってるかのようです。所が、汽車が愈々一二町先に迫って来ると、男はふいに、はっと飛び起きて、線路から飛びのいてしまいました。そして自分の前を通り過ぎた汽車を、棒のようになって見送っているのです。籔の影から様子を窺ってた友人は、ほっと安心すると共に、何だか妙に滑稽な気持ちがしたそうです。青春の頃の感情には、何処までも、真剣さと遊戯心とが絡合ってるものと見えますね。今にその男が、どういう顔付をして戻って来るかと、友達は心待ちにしていたそうです。所が男は、じっと線路の傍に棒立になったきり、身動き一つしません。そのうちに、だいぶ暫くしてだったでしょうが、幸か不幸か、反対の方からまた汽車がやって来ました。すると男は、ふらふらと、まるで夢遊病者ででもあるように、線路の上に上っていって、またレールを枕に寝てしまいました。死神にとっつかれてるというんでしょうね。それを見た友人は、驚いて――前の時と後の時となぜそう気持ちが違ったか、自分でも分らないと云っていましたが――大声を立てたそうです。それから俄に走り出したそうです。然し線路までは可なりの距離があります。男は死んだようになって寝ています。汽車は猶予なく近づいて来ます。

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