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TORENDIA

運命のままに

本文約28,200字 ・ 読了時間 約57分

あらすじ(AIが作成しました)

痩せ型で内面に深い空虚と強固な意力を宿す男・石田周吉が、過去の恋を告白する。かつて自身の運命を信じ、英子という女性と愛を育んでいたが、ある手紙をめぐる不信や恋模様の推移により、愛の信念は揺らぎ始める。やがて彼は、英子との関係に区切りをつけるべく佐原へ旅立ち、その後お島と生活を共にする。現在、己の運命に忠実であろうとする中で、見つめてきたはずの運命の姿が見えなくなるという不安と向き合いながら、過去を語る。

豊島与志雄

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石田周吉というのは痩せた背の高い男である。彼の身体は一寸薄弱そうに見えるけれど、何処か丈夫なものを身内に包んでいるような観がある。始終健全ではないが、またそのままにじりじりと如何な無理をも通してゆけそうに見える。実際彼のうちには不思議な大きいものが在る。注意の対照となるものを凡て自分のうちに引きずり込んで、それで彼はじっと落ち付いている。誰も彼が激しい言葉を発するのを見た者はない。どうかすると頬の筋肉がびくびく震えることもあるが、それも一瞬間のうちに表皮の下に隠されてしまって見えなくなる。凡てのものが心の奥へ潜入してゆくのだ。然しそうして彼の心の奥には何が蓄積されたか? 誰も、恐らくは彼自身と雖も、それを云い得ないであろう。恐ろしい深いそして暗い穴だ。其処をふと覗く時、人は皆ある重苦しい圧迫をさえ感ずる。彼のうちには恐ろしく力強い彼一人の把持する世界が、そして恐らくは空虚な世界が、あるらしい。

最近彼のうちには何か変化、というより寧ろ推移があったらしい。一人で散歩している時など、よく彼は急に足を早めることがある。何かに追われるといった風だ。それからまた彼の眼の光りも濁ってきた。ともすると彼は力ない弱々しい眼付でじっと眼鏡越しに空間を見つめながら、唇をきっと結んでいることがある。その眼付には空虚な憂鬱があり、その口元には強い意力が籠っている。「空虚の中の力」というのは、最近の彼の外貌が示すその内心を最もよくいい現わした言葉であろう。

彼はお島という女と一緒に小さい一戸を構えている。物質的には乏しい生活をしているが、相変らず種々な努力を続けているらしい。

彼は次のように、約二年ばかり前からの恋物語りを告白する――。

一

「あなたは御自分のことばかり考えて被居るのです。そして私をほんとうに愛しては下さらない。」

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