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TORENDIA

夢と人生

本文約9,100字 ・ 読了時間 約19分

あらすじ(AIが作成しました)

原爆の惨禍を経験した筆者は、愛する者との死別を抱え、飢えと空漠とした日々の中で夢や記憶の断片と向き合う。焼失した家や大学の図書室を訪ね歩き、喪失した過去の痕跡を探しながら、自身の生と「死」の概念を反芻する。日常の風景や名画の中に人類の祈りや美しさを再発見し、崩壊した世界においてなお持続する精神の輪郭や、己の魂を確かめようと歩み続ける姿を綴る。

原民喜

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夢のことを書く。お前と死別れて間もなく、僕はこんな約束をお前にした。その時から僕は何も書いていない夢に関するノートを持ち歩いているのだ。僕は罹災後、あの寒村のあばら屋の二階で石油箱を机にして、一度そのノートに書きかけたことがある。が、原子爆弾の惨劇を直接この眼で見てきた僕にとっては、あの奇怪な屍体の群が僕のなかで揺れ動き、どうしても、すっきりとした気持になれなかった。そうだ、僕はあの無数の死を目撃しながら、絶えず心に叫びつづけていたのだ。これらは「死」ではない、このように慌しい無造作な死が「死」と云えるだろうか、と。それに較べれば、お前の死はもっと重々しく、一つの纏まりのある世界として、とにかく、静かな屋根の下でゆっくり営まれたのだ。僕は今でもお前があの土地の静かな屋根の下で、「死」を視詰めながら憩っているのではないかとおもえる。あそこでは時間はもう永久に停止したままゆっくり流れている……。

僕は夢のノートを石油箱の上に置いて思い耽けっていた。僕のいる二階は火の気もなく、暗い餓じい冬がつづいていた。と、ある日、はじめて春らしい日が訪れた。快い温度がじっと蹲っている僕にも何かを遠くへ探求させようとするのだった。あばら屋の二階には、たまたま兄が疎開させていた百科辞典があった。それを開いてみると、花の挿絵のところが目に触れた。すると、これらの花々は過ぎ去った日の還らぬことどもを髣髴と眼の前に漾わす。僕はあの土地へ、嘗てそれらの花々が咲き誇っていた場所へ行ってみたくなった。魅せられたように僕はその花の一つ一つに眺め入った。

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