本文へ移動
TORENDIA

四月五日

本文約540字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

四月五日、山村家を訪れた語り手は、庭先で日向ぼっこをする髪の長い人物の髪を刈り、続いてその弟と思われる少年の髪を刈る。初めて顔剃りをする少年の、剃刀をあてられるたびに緊張し、何かに生まれ変わろうとしているかのような可憐な身構えに、語り手は親しみを感じる様子を描く。

原民喜

速度
🎧 四月五日 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 1

四月五日 山村家から招ばれたので昼から出掛ける。山村家の裏庭には桜が咲いてゐる。縁側にアネモネの鉢が並べてある。静かな家だ。髪の長いよく肥えた人が庭さきの日向に籐椅子を出して、それに腰をかける。

「始めて髪をハイカラにしようと思ふのだからいいやうにしてくれ」とのことだ。何しろよく伸びたものだ、どこかこの人は弱々しいから、もしかすると病気上りかも知れない。その人の髪に鋏を入れて居ると、弟らしい人が縁側に出て来る。兄が髪を刈るのを珍しがって見物だらう。やがて適宜に鋏を入れて顔剃りを了へると、一休みする。弟の方も大分伸びてるので五分刈りにしてくれとのことである。で、早速とりかかる。この人は自分より、三つ四つ年下らしく見える。何だらう、今十五か六だらうと、バリカンを動かしながら考へる。散髪が了って、洗面所で髪を洗ってから、

「顔を剃りませうか。」と訊ねる。すると困ったやうな様子で、

「まだ是迄剃らなかったのですが……」

自分はその返事に一寸興味を感じたので、

「では剃ってみませうか。」

「さうしてもらひませうか。」

自分は到頭その少年の頬に剃刀をあてた。頬に剃刀があたる度にびくびくしながら何だかこれから生れ変らうとでもしてるやうな、可憐な身構へが自分にとって親しみを感じさせた。

完

原民喜の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本