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TORENDIA

未亡人

本文約10,400字 ・ 読了時間 約21分

あらすじ(AIが作成しました)

守山未亡人千賀子は、政治の世界で生きるため秋山から送られた資金を手に、立候補の決意を固める。政治的な地位や虚栄心に駆られ、知人との社交や駆け引きに明け暮れる彼女の姿は、執筆者から動物にも比して滑稽に映る。ある日、墓参に訪れた多磨墓地で、彼女は一時的に思考から解放され無心になるが、日常に戻ると再び立候補への活動という濁った野心の中に身を投じていく。

豊島与志雄

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守山未亡人千賀子さん

私が顔を出すと、あなたはいつも擽ったいような表情をしますね。この擽ったいというやつは、なかなか複雑微妙な感情でして、私はいったいあなたから嫌われてるのか好かれてるのか、戸惑いさせられますよ。もっとも、私としては、あなたから好かれようと嫌われようと、そんなことはどうでも宜しいのですが、あなたの方では、それをはっきりさせとく必要がありますよ。さもないと、私はあなたを擽り擽り、息の根をとめるようなことになるかも知れませんからね。

あなたは猫を擽ってみたことがありますね。ところが、猫は全く平気だったでしょう。擽られる場所が異るにつれて、或は喉を鳴らしたり、或は耳を垂れたり、或は手足を伸ばしたり、それだけで、少しも擽ったがる様子は見えなかったでしょう。それを不思議がって、更に猫をあちこち擽ってみてるあなたの方は、なにか猥らがましくそして滑稽でしたよ。つまり、あなたの方が猫より下劣でした。

猫と同じように、あなたが、硝子戸の中で日向ぼっこをしたり、電気炬燵でうつらうつらしたり、やたらに欠伸をしたりするのを、私はとやかく言うのではありません。

――猫でさえも。

そうです、猫でさえもそんなことをしてるのだから、人間がしていけないということはありますまい。家の中の用は女中や書生がしてくれるし、あなたは何にもしなくても構やしません。働かざる者は食うべからずと、そんな野暮なことを私は言いはしません。だが、日向の縁側や炬燵の上でうとうとしてる猫の居眠りは、あなたのそれよりは、少くとも純粋です。その時々の食物で腹を満たしさえすれば、或る程度の温気のなかに、ただ単純に居眠っているのです。だがあなたは、はっと気を取り直しては、秋山さんへ電話してみようか、どうしようかと、心の中でやきもきしていたではありませんか。

――猫に小判……。

そんな諺は、猫の無智を軽蔑することにはならず、却ってそれを羨むことになるのです。秋山さんから果して五十万の現金が来るかどうか、あなたは待ちこがれて、猫を邪険に取扱ったことさえありましたね。

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