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TORENDIA

桐生通信

本文約16,100字 ・ 読了時間 約33分

あらすじ(AIが作成しました)

桐生に住む著者が、この都市の特有の気質や生活習慣、物価事情を綴る。機敏で商魂たくましい市民の様子や、広大な校庭を持つ小中学校が高校野球の強さを支える現状、独特な神社の縁起などを描き出す。さらに、温泉地での滞在や、かつて暮らした雪国・新潟を再訪した際に感じた気候の変化を通じ、現代の地域風景や自身の心象を考察する一編である。

坂口安吾

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田舎のメインストリートから

私の住居は田舎の小都市ながらメインストリートに位している。この生活は少々の騒音を我慢すれば、かゆいところに手が届いて便利である。たとえば消防車のサイレンが行きすぎると、広告塔が間髪をいれず、

「ただいまの火事はどこぞこでございます」

と叫んでくれる。この広告塔ははなはだ、し(斯)道に熱心で、深夜でも報告を怠らない。四隣みな商店だから急場の必要品にも手間ヒマがかからず、居ながらにして街の呼吸が伝わってくる。

けれども私が本当に呼吸しているのは東京の空気である。私はこの小都市に住んで、年に二度ぐらいしか上京しないが、日々の読み物、そして心の赴く物は人の世の中心的なもの、本質的なものからそれることはできない。私の目や呼吸が東京の空から離れることはあり得ないのである。

私は毎日この町のメインストリートを散歩する。その目に映じるものは風景にすぎない。心の住む場所はまた別で、それはどこに住んでも変りがないものだ。

★

小工業と商業でもつ桐生はおのずから個人的な都市で、したがって商魂もたくましい。ウカウカすれば隣人の目の玉もぬく機敏さが露骨で、むしろ好感がもてるのである。だからこのダンナ方の共同作業の場に関する限り、諸事安あがりはなはだしい。

昨年この町にゴルフクラブができ、私もすすめられて入会した。私がゴルフを覚えたのはこの町のおかげであるが、この会費が月に百円である。しかるべきインドアの練習場が新設され、備えつけのクラブとボールがあって、手ブラででかけて毎日存分に練習することができる。それで月に百円だ。ゴルフが金持の遊びだなぞとはよその国の話で、この町ではパチンコの方がよほど金がかかる。

この市の中心に小さいながらも完備した市営の子供遊園地があって外来者の感服の的であり私も大そう感服していたが、桐生のダンナに言わせると、必ずしもそうでないらしく「子供を二人つれて行くと、あれにいくらかかって、これにいくらかかって、合計三百円、高くついて困るよ」

ダンナのゴルフから見れば諸事高くついて困るのは当り前だ。

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