雨宮紅庵
本文約16,100字 ・ 読了時間 約33分
あらすじ(AIが作成しました)
呉服商の伊東伴作は、知人の雨宮紅庵から身寄りのない女・蕗子の世話を頼まれる。伴作は蕗子を囲うことで彼女の生活を保障するが、紅庵が蕗子の言動の背後で執拗に影響を及ぼしていることに気づく。伴作は紅庵の策謀を疑いつつも、蕗子への抑えがたい執着に苦しみ、逃れられない泥沼のような関係性の中に深く囚われていく様子を描く。
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伊東伴作は親代々の呉服商であつた。学問で身を立てようとしたこともあつたが、一向うだつがあがらないので、このごろは親代々の商人になりすましてゐた。
或日雨宮紅庵といふ昔馴染が、見知らない若い女を連れてきて、この人は舞台俳優になりたいさうだが世話をしてくれないかと伊東伴作に頼んだ。なるほど伊東伴作はその方面に二三の知人がないではないが、女優を推薦するほどの柄も器量もある筈がなし、それに打見たところ女は容姿こそ十人並以上の美しさと言へるが、これといふ特徴がなく、外貌の上ばかりではなく内面的にも全てがその通りの感じで、却つて白痴的な鈍重さが感じられるほどの至つて静的な女に見受けられるから、自分には女優を推薦するほどの手蔓もなし器量もないのでと言つて断つた。ところが雨宮紅庵は伊東伴作の気持には一向平気なもので、尠しもぢもぢしたが、それも心底から間がわるさうな様子ではなく、却つて図々しさを暗示するやうな押しつけがましいものに見えた。さうして、必ず舞台女優でなければといふわけではなく、レビュウの踊子でもいいんだからと、独語でも呟く工合にブツブツ口の中で言つてゐたが、又その次には違つた調子で、グイと膝をのりだしながら、ダンスホールのダンサアだつていいんだから一通りのソシアルダンスを覚える手蔓だけでも与へてくれないかと言ひだしたりした。