本文へ移動
TORENDIA

和歌でない歌

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

ヘーゲルやジイド、李白など古今の哲学者や芸術家の精神的遍歴を辿り、三十歳を目前にした著者が自己の苦悩と真摯に向き合う様子を綴る。人類の叡智と文化の美しさを認めつつも、自身の喘息や生きることの醜さをも受け入れ、葛藤しながらも人生を肯定しようとする意志を描く。さらに、悪夢や孤独、自己の弱さに対する嫌悪を独自の詩歌に昇華させ、理想とする強い精神性を追い求める姿を収める。

中島敦

速度
🎧 和歌でない歌 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 4

遍歴

ある時はヘーゲルが如萬有をわが體系に統べんともせし

ある時はアミエルが如つゝましく息をひそめて生きんと思ひし

ある時は若きジイドと諸共に生命に充ちて野をさまよひぬ

ある時はヘルデルリンと翼竝べギリシャの空を天翔りけり

ある時はフィリップのごと小さき町に小さき人々を愛せむと思ふ

ある時はラムボーと共にアラビヤの熱き砂漠に果てなむ心

ある時はゴッホならねど人の耳を喰ひてちぎりて狂はんとせし

ある時は淵明が如疑はずかの天命を信ぜんとせし

ある時は觀念の中に永遠を見んと願ひぬプラトンのごと

ある時はノーリスのごと石に花に奇しき祕文を讀まむとぞせし

ある時は人を厭ふと石の上に默もあらまし達磨の如く

ある時は李白の如く醉ひ醉ひて歌ひて世をば終らむと思ふ

ある時は王維をまねび寂として幽篁の裏にひとりあらなむ

ある時はスウィフトと共にこの地球の Yahoo 共をば憎みさげすむ

ある時はヴェルレエヌの如雨の夜の巷に飮みて涙せりけり

ある時は阮籍がごと白眼に人を睨みて琴を彈ぜむ

ある時はフロイドに行きもろ人の怪しき心理さぐらむとする

ある時はゴーガンの如逞ましき野生のいのちに觸ればやと思ふ

ある時はバイロンが如人の世の掟踏躪り呵々と笑はむ

ある時はワイルドが如深き淵に墮ちて嘆きて懺悔せむ心

ある時はヴィヨンの如く殺め盜み寂しく立ちて風に吹かれなむ

ある時はボードレエルがダンディズム昂然として道行く心

ある時はアナクレオンとピロンのみ語るに足ると思ひたりけり

ある時はパスカルの如心いため弱き蘆をば讚め憐れみき

ある時はカザノのごとをみな子の肌をさびしく尋め行く心

ある時は老子のごとくこれの世の玄のまた玄空しと見つる

ある時はゲエテ仰ぎて吐息しぬ亭々としてあまりに高し

ある時は夕べの鳥と飛び行きて雲のはたてに消えなむ心

ある時はストアの如くわが意志を鍛へんとこそ奮ひ立ちしか

ある時は其角の如く夜の街に小傾城などなぶらん心

ある時は人麿のごと玉藻なすよりにし妹をめぐしと思ふ

ある時はバッハの如く安らけくたゞ藝術に向はむ心

ある時はティチアンのごと百年の豐けきいのち生きなむ心

ある時はクライストの如われとわが生命を燃して果てなむ心

中島敦の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本