「峠」という字
本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
「峠」という日本独自の漢字の起源や意味について論じる。天武天皇の時代に造られたとされる歴史的背景を日本書紀から紐解き、本来の漢字が持つ嶺との差異を指摘する。また、旅人が行き来する場所としての言語的な由来や、人生の旅路における回顧と希望の象徴としての側面を考察する。本作は、人の営みや精神的な休息の場としての峠を深く掘り下げ、六道四生の旅路における万象の表徴として、その広範な意味を捉え直す試みである。
💰 この本を応援する(投げ銭)
「峠」という字は日本の国字である。日本にも神代から独得の日本文字があったということだが、それは史的確証が無い、人文史上日本の文字は、支那から伝えられたものであって、普通それを漢字と云っているが、日本で創製した文字もある、片仮名や平仮名はそれであって、寧ろ国字といえば、この仮名文字こそ国字であるが、普通に国字といえば、仮名を称せずして、日本製の漢字を謂うのである。
この日本製の漢字が、新たに造られたというのは天武天皇の十一年に(昭和十年より千二百四十三年以前)境部の連石積等に命じて新字一部四十四巻を造らしめられたというのが日本書紀に記されていることを典拠としなければならぬ。右の新国字の数と種とは、今正確に分類出来ないけれども、新井白石の同文通巻によれば「峠」の如きも、当にその時代に造らしめられた国字の一つに相違ない。
本来の漢字によれば「峠」は「嶺」である、嶺の字義に関しては「和漢三才図会」に次の如く出ている。
按嶺山坂上登登下行之界也、与峯不同、峯如鋒尖処、嶺如領腹背之界也、如高山峯一、而嶺不一。
これによって見ると、嶺は峯ではない、山の最頂上では無く、領とか肩とかいう部分に当るという意味である。恐らく、これが漢字の本意であろう。して見ると、嶺字を以て「峠」に当てるのは妥当ならずということは無いが、「峠」という字には「嶺」という字にも西洋語のパスとかサミットとかいう文字にも全く見られない含蓄と情味がある。
和語の「たうげ」は「たむけ」だという説がある、人が旅して、越し方と行く末の中道に立って、そうして、越し方をなつかしみ、行く末を祈る為に、手向けをする、祈願をする、回向をする――といったような縹渺たる旅情である。