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TORENDIA

幻聴

本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

千里眼という恐ろしい能力に翻弄される一人の人物の苦悩を綴る。どこからともなく聞こえてくる囁きが翌日の新聞記事と符合するなど、街の喧騒や自然の音の中から事件の予兆を聴き取ってしまう異常な体験を告白する。神経衰弱を疑い田舎へ逃避しても、小鳥の囀りの中にまで不穏な情報を感じ取ってしまう。保養院の鉄柵越しに世間の出来事を耳にする苦しみを抱え、自らの聴覚に支配され疲弊していく精神の軌跡を描く物語である。

蘭郁二郎

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🎧 幻聴 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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ああ皆様、なんという私は、この呪われた運命の下に生れなければならなかったのでございましょう。――思っても嫌な嫌な、バタバタと足をふみならし、歯ぎしりをしてのたうちたいような、居ても立ってもいられない、焦燥の真ッただなかにほーりこまれてしまったのでございます。

――こんな愚痴を申し上げてよいものか?……さァ、一寸、ためらうのでございますけれども……。

皆様、「千里眼」というものを御存じでしょうか――、アア、そうお笑い下さいますな、イカにも突ッ拍子もない事を申し上げたようですけど――だが、それはまだこの言葉の持つ恐ろしい意味をご存じない、幸福な方だからでございます。

でも、皆様だって、その端ッこ位は経験されていられると思うのですが、例えば音がしないのに、確かにしたと感じられた事はございませんか、お友達と一緒に歩かれた時に、ふと呼びかけられたように思って、『何、何んだって?』と訊きかえして笑われたり――まったく、そんなことは笑ってすまされることなのですが……。

或は又、喫茶店なんかで人が沢山話し合っていますと、却ってどの話もハッキリ聴えないものですが、その中でひょいと『なにをぼんやりしているんだ』そんな声が聴えて、ハッとされたことはありませんか――これを幻聴と申しますが――私の場合は、それを押拡げて机に向ってぼんやり考えごとをしている時、ふと何処からともなく『今Mデパートから飛下りて死んだ人があるよ』そんな囁きが聴えたとします。そして、翌日何気なく開いた新聞の社会面にそのニュースを発見したとしたら、どんなに恐ろしいことでございましょう。

そんなことが私にはよくあるのです。街の中を消防自動車が物凄い唸り声を上げて馳って行きます。私はその喧しい唸り声の中に『今に――座が焼けているんだ』そんな言葉をハッキリ聴きとることが出来るのでございます。そして、前申しましたように、恐ろしいことにはそれが、事実とぴったり符合するのでございます。

――神経衰弱に違いない、私もそう思ったのでございました。混迷錯綜する都会の、あくどい悪戯に違いない、そう思って、田舎にかえってもみたのでしたけれど……

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