息を止める男
本文約3,300字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
水島という男は、息を止めることで得られる特異な快感に憑りつかれている。長時間の呼吸停止により、現実世界との連絡を断ち切った状態で幻の世界を彷徨うという彼の主張を確かめるため、友人はその実験に立ち会う。当初は死の不安に駆られた友人であったが、繰り返し実験を観察するうちに、水島が体験する神秘的で不可思議な幻覚の世界、そして呼吸を止めることで深まる内面的な空間について語られる内容を綴る。
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無くて七癖というように誰れでも癖は持っているものだが、水島の癖は又一風変っていた。それは貴方にお話してもおそらくは信じてくれないだろうと思うがその癖は『息を止める』ということなのである。
私も始め友人から聞いた時は冗談かと信じなかったが、一日彼の家に遊びに行った時に笑い乍ら訊いてみると、彼は頗る真面目でそれを肯定するのである。私も不思議に思ってどうしてそんなことをするのかと聞いてみたが彼は首を振るばかりでなかなか話してくれなかった。
然し話してくれないと尚聞き度くなるものであるし、又あまり変なことなので好奇心に馳られた私はどこまでも五月蠅く追窮したので、水島もとうとう笑いながら話してくれた。
『その話はね、誰れでも五月蠅く聞くんだ、その癖皆んな途中で莫迦らしいと笑って了うんだ。それで僕もあまり話したくないんだ。まあ話を聞くよりは自分で一寸息を止めてみ給え、始めの二三十秒はなんでもないかも知れないが、仕舞いになるとこめかみの辺の脈管の搏動が頭の芯まで響いて来る。胸の中は空っぽになってわくわくと込み上げる様になる――遂、堪らなくなって、ハアーと大きく息を吸うと胸の中の汚いものがすっかり嘔き出されたようにすがすがしい気持になって、虐げられた心臓は嬉しそうに生れ変ったような新らしい力でドキンドキンと動き出す。
僕はその胸のわくわくする快感が堪らなく好きなのだ。ハアーと大きく息する時の気持、快よい心臓の響き。僕は是等の快感を味わう為には何物も惜しくないと思っている』
水島はそう言って、この妙な話を私が真面目に聞いているかどうかを確かめるように私の顔を見てから又話しを続けた。