孤独
本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
銀座の裏通りにある喫茶店「ツリカゴ」へ毎日のように通う洋次郎は、そこで以前から顔を見知っていた原という男に話しかけられる。原は都会の人混みの中で感じる孤独について語り、見知らぬ人々に囲まれる恐怖を吐露する。洋次郎は原の雄弁さに気味の悪さを抱くが、会話を続けるうちに原が持つ懐疑的な思想に触れていく。二人の対話を通じて、都会という環境における人間心理の奇妙な繋がりと、原が抱く孤独への執着が浮かび上がる。
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洋次郎は、銀座の裏通りにある“ツリカゴ”という、小さい喫茶店が気に入って、何時からとはなく、そこの常連みたいになっていた。と、いってもわざわざ行く程でもないが出歩くのが好きな洋次郎は、ツイ便利な銀座へ毎日のように行き、行けば必ず“ツリカゴ”に寄るといった風であった。
“ツリカゴ”は小さい家だったけれど、中は皆ボックスばかりで、どのテーブルも真黒などっしりしたものであり、又客の尠い為でもあろうか、幾ら長く居ても、少しも厭な顔を見ないで済むのが、殊更に、気に入ってしまったのだ。
何故ならば洋次郎は、その片隅のボックスでコーヒーを啜りながら、色々と他愛もない幻想に耽けることが、その気分が、たまらなく好ましかったからであった。
そうして何時か黄昏の迫った遽しい街に出ると、周囲のでかでかしいネオンサインの中に“ツリカゴ”と淡く浮くちっぽけなネオンを、いじらしくさえ思うのであった。
そうして今日まで交う中、洋次郎は図らずも今この“ツリカゴ”の中で、一人の見知らぬ男に話しかけられた。その男は洋次郎よりも古くから、店の常連らしく、そういえば彼が始めてここに来た時に、既に何処かのボックスで、一人ぽつねんと何か考え事をしていたこの男の姿が、うっすらと眼の底に浮ぶのであった。
その男――原と自分でいっていた――は、人より無口な洋次郎にとっては随分雄弁に色々と話しかけて、洋次郎自身一寸気味悪くさえ思われた。
然し、洋次郎はこの男の話を聴いて行く中に、それが何故であるかが、段々解って行くように思われた。
(この男、懐疑狂だナ……)
如何にもこの男の話は妙な話であった。それでいて洋次郎には、一概に笑ってしまえない、胸に沁透る何かがあった。
――あなたもよくこの家へ来られるようですが、その途中で何時も同じ人に会うことがありますか。
原という男は、そんなように話した。
――さあ、そういえばないようですね。