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TORENDIA

『猿・鹿・熊』の序

本文約800字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

信州の山奥に生きる猿、鹿、熊の生態を記録した本書の序文である。著者が自らの目で観察した動物たちの習性を、専門的な探究手法に捉われず、童心にも響く平明な言葉で描き出す姿勢を高く評価する。山国の風土記としての側面と、子供たちの好奇心を刺激する愛嬌ある動物たちの姿を通じ、自然環境の豊かさとそこに息づく命への新たな視点を提示し、読者に動物への関心を喚起させる役割を担う一冊として紹介する。

岸田國士

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🎧 『猿・鹿・熊』の序 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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この本の著者と私は一面識があるといふだけで、それほど深い交渉はないのだけれども、かねがね地方における篤学篤行の士であることは聞き及んでいた。

たまたま今度、本書の出版にあたって、私に序を寄せよとの希望があり、私は、自分に与えられたこの役割を無下に辞退する気にならなかった。それは、本書のゲラ刷を一読してみて、類の少い内容のものだといふ感じがしたばかりでなく、僻地における教師生活の実状を知る私として、この種の作業に身を入れる著者の精神を高く評価したためである。

野性動物の生態を観察、記録する興味と実益は、いまさら事新しく論ずるまでもない。本書の著者もおそらく先人の残した業績について、ひと通りの知識を備えているにちがひないが、それはそれとして、自分のおかれている自然環境のなかから、自分の眼で見、耳に聴く活き活きとした動物世界の習性の数々を、必ずしも純然たる科学者の探究方法によらず、むしろ、童心にもうったえ得る親しみ易い態度で、平明に語ろうとしている点が、私の注意をひいた。

猿、鹿、熊の三つの題を撰んだのも、信州という山国の、そのまた山奥の風土記の味いを添えつつ、最も子供たちに好奇心をもたれている愛嬌ものを揃えたところに、著者のねらいがあるのであろう。

そして、そのねらいはたしかに成功している。

私もしばらく信州で暮らしたことがあり、現在も上州の山の中で一年の大半を過すのであるが、本書によって教えられるところはもちろん多いし、さらに、これらの動物に対して、新たな興味が湧いて来た。しかし、実際に彼等の山中における生活を見る機会はなささうだから、せめて、この書物を読んでおいて、もう一度動物園へ行ってみるつもりである。きっと、檻の中の彼等は、私がなにを知っているかを気づかずに、すました顔でむしゃむしゃなにかを食っているであろう。その顔を見るのは、今から楽しみである。

一九五一年十月浅間山麓にて  岸田國士

完

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