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TORENDIA

太一の靴は世界一

本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

十六歳の少年・太一は、母の言葉を胸に、世界一の靴屋になる決意を固め、工場の倉庫脇で靴直しの店を始める。腕前は確かだが仕事が遅いことで以前の店を追われた太一だったが、実直な仕事ぶりと「太一の靴は世界一」という自信に満ちた言葉は評判を呼び、次第に多くの客で賑わうようになる。ある日、工場の主人から急ぎの注文を受けるが、順番待ちの客を優先して断ったことで窮地に立たされる。太一の職人としての誠実な姿勢が試される物語。

豊島与志雄

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🎧 太一の靴は世界一 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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一  大きな工場のかたすみに、倉庫があります。倉庫の裏口には、鉄の戸がしまつてをり、その上に長いひさしが出てゐます。

そのひさしの下に、十六七さいの少年が、靴直しの店を出しました。店といつても、名ばかりです。靴直しのだうぐと、革のきれはしと、こしかけになる木の箱だけです。

そのへんには、工場や、会社が並んでゐて、靴をはいた人たちがたくさんゐます。でも、この少年に靴直しをたのむ者は、一人もありませんでした。夕方になると、少年はだうぐをしまつて、すご/\とかへつて行きました。

あくる日、少年は、また、朝からやつて来ました。やはり、お客は一人もありません。少年は、べんたうをたべただけで、一日じつとしてゐて、かへつて行きました。

その、あくる日も、おなじことでした。

四日目の朝、工場の倉庫がゝりの人がやつて来て、少年に話しかけました。

「君は、毎日こゝに来てゐるやうだね。」

「えゝ、こゝが気にいつたのです。長いひさしが出てゐますから、雨が降つても、こゝなら仕事が出来ます。」

倉庫がゝりの人は笑ひました。

「雨が降つても来るつもりかい。だつて、お客は、一人もないではないか。」

「あるまで待つてゐます。もう、けつしんしてゐるのです。」

「ほう、どんなけつしんだい。」

それは、大へんなけつしんでした。

この少年は、ある靴屋に、二年ばかりほうこうしてゐたのです。うでまへは、めき/\とよくなつて行きましたが、仕事がおそくて、気がきかないといふので、ことわられてしまひました。そこで、しかたなく、ぼんやりしてゐますと、おかあさんから、いろ/\いつて聞かされました。

「気を落してはいけません。世の中のことは、何ごとも、けつしんしだいです。お前は、どうせ、靴屋になるつもりだつたのだし、それに、仕事こそおそいが、りつぱなうでまへを持つてゐるのだから、あくまでも、靴屋で身を立てるけつしんをなさい。いゝかげんの気持で、なまけるのが、一ばんいけません。

これから、世界一の靴屋になるつもりで、一生けんめいにやつてごらんなさい。」

さういはれても、少年は、まだ、けつしんがつきませんでした。

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