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TORENDIA

朝倉一五〇

本文約770字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

少年の橋田庫次は、日暮れの荒倉の山坂を自転車で越える途中で、朝倉一五〇と記された提灯を掲げる人力車に出会う。不気味な声で乗車を誘われた橋田は、それを拒んで急坂を駆け下りるが、背後から音もなく走り去る同じ提灯の人力車に遭遇する。さらに麓の分岐点でも再び同じ車が現れ、朝倉連隊方面へ消えていく様子を描く。怪異な現象に翻弄される少年の不可解な体験と、夜の山道で次々と繰り返される奇妙な遭遇を綴る。

田中貢太郎

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🎧 朝倉一五〇 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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洋画家の橋田庫次君の話であるが、橋田君は少年の頃、吾川郡の弘岡村へ使いに往って、日が暮れてから帰って来たが、途中に荒倉と云う山坂があって、そこには鬼火が出るとか狸がいるとかと云うので、少年の橋田君は鬼魅がわるかった。

橋田君はその時自転車に乗っていた。やがて荒倉の麓へ来たので、自転車をおりて、それを押し押しあがって往ったが、暗くはなるし人っ子一人通らないのでひどく淋しかった。そしてやっとの思いで峠へたどりついた。峠には一軒の茶店があって、門口に提灯を点けた一台の人力車がいたが、それには朝倉一五〇としてあった。朝倉一五〇の提灯を持っているからには、朝倉の車夫であろう。兎にかく一休しようと思って茶店の入口へ往った。すると傍から声がした。

「哥さん、どうせ乗って往きや」

どうせ乗って往きやという事は変ないいまわしであった。橋田君は厭な気がした。そこで、

「うん」

と云ったきりで、茶店へ寄る事もよして、そのまま自転車に飛び乗って坂路を駈けおりた。

かなり勾配のある坂路であるから、自転車はすうすうと滑って往った。そして、中央まで往ったところで、後から一台の人力車が来て、橋田君の自転車を駈けぬけて走ったが、すこしも轍の音を立てなかった。橋田君はどうした車だろうと思って眼をやった。車には朝倉一五〇の提灯が点いていた。橋田君は眼をった。一生懸命に駈けおりている自転車を、あれからすぐ追っかけて来たところで、人間わざでは駈けぬけることはできない。橋田君はちょっと変に思った。

やがて麓へおりて、途が二つに岐れた処へ往った。その路を左へ往けば、朝倉連隊に往くようになっていた。と、見ると、地の底からでも出て来たように、そこへ一台の人力車が来て、朝倉連隊へ往く方の路へ折れて往った。橋田君はおやと思ってそれに眼をやった。その車にも朝倉一五〇の提灯が点いていた。

完

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