水草
本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
田阪の池を乾かす作業による騒音で眠れぬ日々を過ごす語り手のもとへ、俳友の石亭が訪れる。石亭は田阪の庭で害獣となっているあひるを退治しに行くと告げ、戻るとあひるの胃から出てきたという人髪と翡翠の耳飾を差し出す。それは田阪の一人娘ヒサ子の所持品であり、継母による殺害の証拠だと主張する石亭。しかし語り手は、石亭が語る理屈の不自然さと、彼が詠んだ句、そして田阪のあひるが本来一羽のみであるという事実に触れ、疑惑を深めていく。
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朝の十時ごろ、俳友の国手石亭が葱とビールをさげてやってきた。
「へんな顔をしていますね。どうしました」
「田阪で池の水を落とすのが耳について眠れない。もう三晩になる」
「あれにはわたしもやられました。池を乾して畑にするんだそうです」
「それはいいが、そのビールはなんだね」
「あい鴨で一杯やろうというのです。尤もあひるはこれからひねりに行くのですが」
田阪のあひるが水門をぬけてきて畑を荒してしようがないから、おびきだしてひねってしまうというはなしなのである。
石亭は田阪の一人娘とむずかしい仲になっていて、娘の継母が二人をこっそり庭で逢わせたりしていたということだったが、復員してくるとすっかり風向きがかわり、娘を隠したとか逃したとか、そういう噂をよそからきいていた。そんな鬱憤も大いに手伝っているのだと察した。
「釣針に泥鰌をつけておびきよせましてね、その場で手術刀で処理してしまうんです。中支ではよくやりましたよ」
そんなことをいいつつ尻はしょりをして出かけて行ったが、なかなか帰ってこない。
きのう田阪の女中が来て、誰かあひるを殺して藪の中におしこんでありましたんですがもしお気持がわるくありませんでしたらといって、大きな手羽をひとつ置いて行った。きのう誰かにやられ、きょうまた石亭にしめられたのでは田阪のあひるも楽じゃないなどとかんがえているところへ、石亭がへんにぶらりとしたようすで帰ってきて、手に握っていたものを縁の端へ置いた。髪毛が毬のようにくぐまった無気味なものである。
「それはなんだね」
「こんなものがあひるの胃袋から出てきたんです。まあ、見ていてごらんなさい」
石亭はひきつったような笑いかたをするともさもさを指でかいさぐって小さな翡翠の耳飾をつまみだした。
「これはヒサ子の耳飾ですから、髪毛もたぶんヒサ子のでしょう。継母がヒサ子を殺して池へ沈めたのを、あひるが突つきちらしてこれが胃の中に残ったというわけです」
「えらいことをいいだしたね」