心願の国
本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
武蔵野市に住む語り手は、空を舞う小鳥や頭上の星々に自らの姿を重ね、過去の記憶や孤絶感と向き合っている。広島の被爆体験による精神的な衝撃や死者への思慕、そして日常の風景に見出す小さな感動を綴り、苦悩しつつも滅びゆくものへの祈りを捧げる。繊細な感覚を通じて、死と生の狭間で揺れ動きながらも、一つの生涯が美しく燃焼し、充実することへの切実な心願を描き出している作品である。
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〈一九五一年 武蔵野市〉
夜あけ近く、僕は寝床のなかで小鳥の啼声をきいてゐる。あれは今、この部屋の屋根の上で、僕にむかつて啼いてゐるのだ。含み声の優しい鋭い抑揚は美しい予感にふるへてゐるのだ。小鳥たちは時間のなかでも最も微妙な時間を感じとり、それを無邪気に合図しあつてゐるのだらうか。僕は寝床のなかで、くすりと笑ふ。今にも僕はあの小鳥たちの言葉がわかりさうなのだ。さうだ、もう少しで、もう少しで僕にはあれがわかるかもしれない。……僕がこんど小鳥に生れかはつて、小鳥たちの国へ訪ねて行つたとしたら、僕は小鳥たちから、どんな風に迎へられるのだらうか。その時も、僕は幼稚園にはじめて連れて行かれた子供のやうに、隅つこで指を噛んでゐるのだらうか。それとも、世に拗ねた詩人の憂鬱な眼ざしで、あたりをじつと見まはさうとするのだらうか。だが、駄目なんだ。そんなことをしようたつて、僕はもう小鳥に生れかはつてゐる。ふと僕は湖水のほとりの森の径で、今は小鳥になつてゐる僕の親しかつた者たちと大勢出あふ。
「おや、あなたも……」
「あ、君もゐたのだね」
寝床のなかで、何かに魅せられたやうに、僕はこの世ならぬものを考え耽けつてゐる。僕に親しかつたものは、僕から亡び去ることはあるまい。死が僕を攫つて行く瞬間まで、僕は小鳥のやうに素直に生きてゐたいのだが……。