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TORENDIA

中秋の頃

本文約4,300字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

深まりゆく秋の庭を眺めながら、そこに見られる多様な生物の生態や植物の不思議な運命、日々の暮らしの細部を綴る。作者は庭に棲む虫や鳥、蛛の網、成長しては姿を消す蝉や竹の枯死などの観察を通して、自然界の生滅と自身の生活を重ね合わせる。また、果樹や垣根の手入れ、近隣の犬や鶏を巡る騒動など、四季の移ろいとともに過ぎゆく日常の機微を静かに見つめる。

田山録弥

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🎧 中秋の頃 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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芭蕉の葉が破れ始めた。これでも、秋がもう深くなつたことが思はれる。朝、目が覚めると虫の音がさびしく聞えてゐる。それが言ふに言はれない詩興を促がす。

これからは書ける時だなどと思ふ。その癖、毎年碌なものを書いたためしもなく過ぎて来た。二十五六年前に、『隅田川の秋』といふ作をした時のことなどが不思議に思ひ出されて来た。

もうあの時分のやうな興会は得られまいと思ふとさびしい気がする。矢張かうしていつの間にか過ぎて行つて了ふのだ……。為ようと思つたことの半分も出来ずに。

今年は夏は晴天つゞきであつたが、今になつては雨が頻りに降る。毎日雨滴の木の葉や樹の幹から落ちるのを見て机に向つてゐる。鳥なども寒さうでまたさびしさうだ。毎朝きまつて朝の挨拶をするやうにしてやつて来た大きな蝦蟇もこの頃は何処に行つたか姿も見せなくなつた。それにしても其一部も人間に分つてゐない蝦蟇の生活が不思議な気がした。眼の大きい末の女の児に、『そら、お前の先祖が来たぜ』などゝ言ふと、『どれ? 何処に? 何だ? おかまがへるか』と云つて笑つた。

樹が多いだけに、鳥も種々な鳥がやつて来た。四十雀の色彩ある羽を見ることも稀ではなかつた。春は鶯が私の籠飼ひのものででもあるかのやうにして家の周囲を去らずに好い声を立てた。何うかするとほゝじろの細かい囀などもきかれた。静かに観察すると、私の小さな庭だけにも随分沢山な生物が棲んでゐるのであつた。

蛛も面白い。払つても払つてもぢきに又網を張る。そしてそれに銘々その持場があつて、何処には何ういふ網、此処にはかういふ網といふ種類が大抵きまつてゐる。高い枝の上から下りようとする時などは頗る便利に出来てゐる。ヅウと長く糸を引いて下りて来る。わけはない。人間もあゝだつたら面白いだらうなどゝ私は見惚れた。

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