TRENDIA CLASSIC

その人を知らず

三好十郎

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窓のないガランとした室。

中央にテーブルと三四のイス。

伴(軍服)がイスにかけて書類を見ている。壁の前に人見(セビロにゲイトル)が、棒のようにこわばって立っている。

間――時計の秒刻の音。

伴 (寝ぼけたような顔をあげて)人見。

人見 は。

伴 ツトムいうのかね、ベンかね?

人見 ツ、ツトムで、あ、あります。

伴 三十四歳。……独身か。家族は、妹だけか……妹だね、この治子というのは?

人見 は。妹であります、はい。

伴 キリスト教教会牧師というと……どうだね、ちかごろ?

人見 は? あの、なんでございましょうか?

伴 いや、この――信者か……信者は、よっぽど居るのかね?

人見 いえ、教会といいましても、ほとんど私個人ではじめたようなもので、その、ホンの小さい……二百人ばかり、その、名簿だけにはのっておりますが、現在はホンの五六人、いえ、この、集りなども、全く休んでいまして、実際は一人もおりませんような、状態でして、つまり教会というのは名前ばかりでして――。

伴 ふむ。……それで費用などは、どこから出てる? たいがい、なんだろう、外国から……つまり伝道会というかね――現在はトゼツしとるかしらんが、以前だなあ?

人見 いえ、それは、そんな事はありませんです。最初から、この、なんです、私たち五六人の信者どうしが集ってなにしたもので、一種の独立教会……日本内地の、どんな教派とも、べつにつながって居りませんくらいで、ましてその――

伴 しかし、すると費用は、どうするね?

人見 費用と申しましてもべつにいりませんし――

伴 君や、その妹の生活費だって、いるだろう?

人見 それは、私は、以前、教師をしていましたし、現在は私も妹もチョウヨウを受けまして、そいでまあ――

伴 (書類に目をやって)東亜計器か。飛行機をこさえるんだったね?

人見 はい。もと時計の方の工場でございまして、現在、ズッと、おもに飛行機の計器を製造して――

伴 よかろう。それで――で、主の祈りというのは、どういうのかね?

人見 主の――?

伴 聞かせてくれたまい。

人見 しゅ[#「しゅ」は底本では「しゆ」]、主の祈りでございますか?

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