本文へ移動
TORENDIA

冒した者

本文約76,500字 ・ 読了時間 約153分

あらすじ(AIが作成しました)

戦争で妻を亡くし、生きる意味を見失った主人公は、東京郊外の荒れ果てた古い邸宅で暮らしている。同じ屋敷には複数の家族や学生の須永らが同居していた。須永はかつて交際相手を失った過去の記憶を抱え、現実に苦悩している。虚無感と息苦しさを抱えた二人が月の光の下で対峙し、彼らが自らの生と死の境界に向き合う姿を描く。閉塞的な現実の中で、自身の生を確信しようとする人間の内面と行動を追いかけていく。

三好十郎

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 96

人物

私

須永

舟木(医師)

織子(その妻)

省三(学生・舟木の弟)

若宮(株屋)

房代(その娘)

柳子

浮山

モモちゃん

1

そうだ。もう芝居は、たくさんだ。いつまでやって見ても果てしの無い話だ。私たちの後ろにかくれて、私たちを踊らせている者がある。私たちはそれに気が附かずに、自分は自分の意志で自分のイノチを生きていると思って居る。そして自分を取りかこんだ観客から見られ、見られることで得意になり、セッセと演技をつづける。後ろにいるやつは、そこまで知っている。そこまで計算している。

私たちの腹の底の底まで見抜いている。私たちがどう考えてどっちに転んでも、自分の演出の外へ抜けだすことは出来ないことを知っている。だからそいつはニヤニヤと声を立てないで笑っている。

しかしもう飽きた。もうたくさんだ。なるほど、そいつの演出の外へ抜け出すことは出来ないかも知れないが、こうして、フフ、後ろを振向いて――見ろ――チラッと、こうして、そいつの顔をチラッと見てやる事は出来るのだ。そいつは、きまりを悪がって、顔をふせて、サッと居なくなる。又すぐ戻って来るが、いっとき居なくなる。その時間だけは私のものだ。この時間だけが私の自由だ。誰も私を演出していない。誰も私を見物していない。だから私は演じなくともよい。人のために自分の表情をゆがめる事なく、自分自身のためだけに僅かばかり生きるのだ。

三好十郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本