TRENDIA CLASSIC
冒した者
三好十郎
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人物
私
須永
舟木(医師)
織子(その妻)
省三(学生・舟木の弟)
若宮(株屋)
房代(その娘)
柳子
浮山
モモちゃん
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そうだ。もう芝居は、たくさんだ。いつまでやって見ても果てしの無い話だ。私たちの後ろにかくれて、私たちを踊らせている者がある。私たちはそれに気が附かずに、自分は自分の意志で自分のイノチを生きていると思って居る。そして自分を取りかこんだ観客から見られ、見られることで得意になり、セッセと演技をつづける。後ろにいるやつは、そこまで知っている。そこまで計算している。
私たちの腹の底の底まで見抜いている。私たちがどう考えてどっちに転んでも、自分の演出の外へ抜けだすことは出来ないことを知っている。だからそいつはニヤニヤと声を立てないで笑っている。
しかしもう飽きた。もうたくさんだ。なるほど、そいつの演出の外へ抜け出すことは出来ないかも知れないが、こうして、フフ、後ろを振向いて――見ろ――チラッと、こうして、そいつの顔をチラッと見てやる事は出来るのだ。そいつは、きまりを悪がって、顔をふせて、サッと居なくなる。又すぐ戻って来るが、いっとき居なくなる。その時間だけは私のものだ。この時間だけが私の自由だ。誰も私を演出していない。誰も私を見物していない。だから私は演じなくともよい。人のために自分の表情をゆがめる事なく、自分自身のためだけに僅かばかり生きるのだ。
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