TRENDIA CLASSIC

疵だらけのお秋

三好十郎

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人間

お秋(26)

その弟(16)

沢子(22)

秦(中年の仲仕)

阪井(片腕の仲仕)

初子(24)

町田(25)

杉山(36)

女将

客達

仲仕達

或る港の酒場

(一) 沢子の室

六畳。それに続いて向かつて左の隅に三畳。おそい午後。まだ電燈がつかない。三畳の方は殆んど真暗である。六畳に沢子が寝てゐる。三畳の暗がりにお秋の弟が机に坐つて封筒張りをしてゐる。――紙の音がバサバサ聞える。間――

沢子 (身じろぎをして、三畳の方へ襖越しに)恵ちやん。

弟 ――(答無し。紙の音)

沢子 恵ちやん。――恵ちやん。まだお仕事は済まないの?(弱々しく)そんなに、あんまり詰めてすると、また、眼が痛み出してよ。――ねえ。少し休んだらどう?

弟 ――(答無し。紙の音)

沢子 ――まだ姉さんは帰つて来ないの?

弟 ――(答無し。紙の音)

沢子 (返事をされない事には慣れてゐるらしく)――また秋ちやん、鑑札を取上げるとか何とか言つて、おどかされてゐるんだわ。――ほんとに、秋ちやんはいつも苦労の絶間がないわねえ。――苦労を一人でしよつてゐるんだわ。――ほんとに、――。

弟 ――(答無し。紙の音)

沢子 ねえ、恵ちやん。あんたは、いゝ姉さんを持つて仕合せだわねえ。私なんぞ、あるにはあるけど――(間)ねえ、もうお師匠さんとこへ出かける時間ぢやないの?

弟 ――(答無し)

沢子 早く切り上げて行かないと、また姉さんに叱られてよ。よ、恵ちやん。私はね――(続けようとするが奥の梯子段を昇つて来る足音に、言葉を切る)

奥から女将の声

声 沢ちやん。

沢子 ――

声 何を話してゐるの? ……大分元気さうだねえ。どう、身体の工合は?

沢子 えゝ……。

声 いつまでも、グズグズぢや私の方も困るんだがねえ。どうとかもう……。

沢子 えゝ、それは、よく解つてゐます。ゐますけど――腰がまだ痛んで――。

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