土下座
本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
祖父の葬儀で、墓地の入り口に父親と共に土下座をした男は、通り過ぎる農民たちの足に深く感謝する心情に目覚める。礼を通じて人との正しい心の交通を体感した彼は、それまで気づかなかった祖父の孤独や老人たちの心情を理解し、謙遜な態度が人との隔たりを消す意義を学ぶ。本作は、この土下座の経験をきっかけに自身の内面にある社会との隔絶や心のひびに直面し、新たな生活への進出を模索する一人の青年の精神的遍歴を綴る。
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ある男が祖父の葬式に行ったときの話です。
田舎のことで葬場は墓地のそばの空地を使うことになっています。大きい松が二、三本、その下に石の棺台、――松の樹陰はようやく坊さんや遺族を覆うくらいで、会葬者は皆炎熱の太陽に照りつけられながら、芝生の上や畑の中に立っていました。永いなじみでもあり、また、癇癪持ちではあったが、心から親切な医者として、半世紀以上この田舎で働いていた祖父のために、ずいぶん多くの人が会葬してくれました。
式が終わりに近づいた時、この男は父親と二人で墓地の入り口へ出ました。会葬者に挨拶するためです。入り口のところには道側の芝の中に小さい石の地蔵様が並んでいました。それと向かい合った道側の雑草の上に、荒蓆が一枚敷いてあります。その上に彼は父親と二人でしゃがみました。そこへ来るまで彼は、道側に立って会葬者にお辞儀するのだろうと考えていましたが、父親がしゃがんだので同じくまねをしてしゃがんだのです。
やがて式がすんで、会葬者がぞろぞろと帰って行きます。狭い田舎道ですから会葬者の足がすぐ眼の前を通って行くのです。靴をはいた足や長い裾と足袋で隠された足などはきわめて少数で、多くは銅色にやけた農業労働者の足でした。彼はうなだれたままその足に会釈しました。せいぜい見るのは腰から下ですが、それだけ見ていてもその足の持ち主がどんな顔をしてどんなお辞儀をして彼の前を通って行くかがわかるのです。ある人はいかにも恐縮したようなそぶりをしました。ある人は涙ぐむように見えました。彼はこの瞬間にじじいの霊を中に置いてこれらの人々の心と思いがけぬ密接な交通をしているのを感じました。実際彼も涙する心持ちで、じじいを葬ってくれた人々に、――というよりはその人々の足に、心から感謝の意を表わしていました。そうしてこの人々の前に土下座していることが、いかにも当然な、似つかわしいことのように思われました。