蒼白い月
本文約9,400字 ・ 読了時間 約19分
あらすじ(AIが作成しました)
大阪と神戸の間に位置する新開の別荘地を舞台に、語り手の私は、兄の養子である桂三郎とその妻・雪江の生活を訪ねる。三人は静かな海岸を散策し、将来への展望に乏しいが平穏な彼らの日常に触れる。その後、須磨や舞子、明石といった近隣の海岸を巡り、瀬戸内の風景を眺めながら鯛料理などを堪能する。帰宅後、私は別れを告げ、蒼白い月が照らす夜の海岸を後にする。
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ある晩私は桂三郎といっしょに、その海岸の山の手の方を少し散歩してみた。
そこは大阪と神戸とのあいだにある美しい海岸の別荘地で、白砂青松といった明るい新開の別荘地であった。私はしばらく大阪の町の煤煙を浴びつつ、落ち着きのない日を送っていたが、京都を初めとして附近の名勝で、かねがね行ってみたいと思っていた場所を三四箇所見舞って、どこでも期待したほどの興趣の得られなかったのに、気持を悪くしていた。古い都の京では、嵐山や東山などを歩いてみたが、以前に遊んだときほどの感興も得られなかった。生活のまったく絶息してしまったようなこの古い鄙びた小さな都会では、干からびたような感じのする料理を食べたり、あまりにも自分の心胸と隔絶した、朗らかに柔らかい懈い薄っぺらな自然にひどく失望してしまったし、すべてが見せもの式になってしまっている奈良にも、関西の厭な名所臭の鼻を衝くのを感じただけであった。私がもし古美術の研究家というような道楽をでももっていたら、煩いほど残存している寺々の建築や、そこにしまわれてある絵画や彫刻によって、どれだけ慰められ、得をしたかしれなかったが――もちろん私もそういう趣味はないことはないので、それらの宝蔵を瞥見しただけでも、多少のありがた味を感じないわけにはいかなかったが、それも今の私の気分とはだいぶ距離のあるものであった。ただ宇治川の流れと、だらだらした山の新緑が、幾分私の胸にぴったりくるような悦びを感じた。