本文へ移動
TORENDIA

望郷

本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

歴史学研究会北海道支部の招きで初めて北海道を訪れた筆者は、札幌、旭川、小樽、余市、函館を巡り、開拓の歴史や戦後の社会情勢を観察する。各地の産業構造や都市計画の背景にあるアメリカや植民地時代の面影、そして先住民族との歴史的関係を紐解きながら、現在の北海道が抱える冷戦下の緊張と、過去の遺構に託された独立への想いを綴る。旅の終わりに、函館の風景の中で郷愁を抱きつつ、過去と現在の重なりを静かに思索する。

服部之総

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 17

歴研(歴史学研究会)北海道支部に日程は一任して、上野発十月十五日、帰着二十七日ということで、生れてはじめて北海道にでかけた。その間にきっと初雪がある、との注意で冬仕度をしてでかけたら、あちらの人々はまだみんな合着で、札幌の街をマフラー姿で歩いた最初の人間が、私ということになった。だが初雪は、二十五日の夜全道にふった。

歯舞諸島のユリ島付近でB29がソ連戦闘機に撃墜される事件が起きたのは十月七日のことだが、私が札幌について二日目の十七日には、歯舞諸島は日本領土であるという米国務省の対ソ抗議覚書が発表された。根室沖が「危険地帯」の発火点になるための外交辞令はととのった形である。二十日私は旭川にいた。その前の日だったろうか、米軍ジェット機が旭川付近のどこかしらで墜落して、それを捜索するための小型機が旧練兵場から一日中飛びまわっているのを私は見た。学芸大学の裏手のアイヌ部落のまんなかに立ってその飛行機を見ているときに、旭川には水野成夫氏の国策パルプの工場があるが、ストライキなどはけっしておこらないしくみになっているときいたとたんに私はおかしさがこみあげてきた。というのも国策パルプ、苫小牧製紙、東洋高圧、帝国製麻、日本製鋼、北海道電力といった優良株を、北海道に工場があるという理由で、絶対に買わない男がいるという話をとたんに思い浮べたからである。その男の名前もむろん私は聞いているのだが、旧財閥筋のさる大会社のれっきとした重役なのである。こんな重役が一人でも日本にいるかぎり水野氏はまだまだのしあがるだろう。ところでストライキは、そのとき全道、否全国にわたって炭労、電産二労組がゼネストに入っていたのである。炭労は十三、四日にわたる四十八時間ストについで、十七日から大手筋十六社二十四万人が一せいに無期限ストに突入した。

服部之総の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本