ソクラテス
本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
若き日の懐疑に苦しんだ著者が、ソクラテスの伝記から真の思索家としての生き方を見出すまでの過程を綴る。言行一致を貫き、内なる声であるダイモンに従って善悪を判断する姿勢や、高慢さを持たず、周囲の冷評にも動じない人格に崇敬の念を抱く。自身の精神修養の指針として、理想的な生き方を体現したソクラテスへの深い敬愛と、現代人が直面する苦悩や失望を乗り越えるための模範としての側面を詳述する。
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一 ソクラテスに依りて懐疑を解く
私は十五、六歳の学生時代から、世の中のことに就て思い悩んでいた。たとえば、自分では正しいと思ってすることも、相手の気に障って、予想外の怒りや恨みを受けることもあるために、これからは、一体如何なる心掛けで人生を送ったら好いものかということに考え及ぶと、疑惑が百出して、何時も何時もその解決に苦んだ。然るに、その後、ふとソクラテスの伝記を読むに至って、私の満腔の崇拝心と愛好心は悉くこの偉人の上に濺がれるようになり、同時に、永年の懐疑も、頓に氷解するを得たのである。
即ち友人間の交際にしても、あるいは一歩進んで、人生に処する上にも、手を下し、口を開く前には、一、二歩退いて、我儘の利己のためではないか、という事を慎重に反省してみる。しかして、いささかでもそういう気味を帯びておるとすれば、断然これを中止するのであるが、一旦、自分が是なり善なりと信ずるに於ては、それを実行するに寸刻の猶予もしない――こういうことを思って、頓てはこれを主義ともするようになった。
私が理想的実行家としてリンコーンを愛好すると同じ程度に於て、ここに理想的思想家の真意義をソクラテスの人格に見出して、すべての他の偉人にも増して、これが尊崇の念を禁じ得ないのである。
二 真に言行一致の人
ソクラテスの伝記書類は随分数多く読んだけれども、私の伝記研究は、学者のする学問のためではなく、常に応用的、いわば自分一個の精神修養を目的としたものであるから、勿論、システムなどは立っておらぬ。従って、ソクラテスを読んでも、着眼するところはその一点で、ソクラテスの哲学や何かに就ては、始めからあまり調べる気もしない。