少女がこなかったら
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
真夜中の静寂に響く車の音を聞き、恐怖を抱く少年・太郎と、田舎から奉公に来た女中・おさよの姿を描く。太郎はその音に恐ろしい男の姿を想像するが、おさよは故郷で荷車を引いた祖父の面影を重ねる。ある夜、車の音に誘われ外へ飛び出したおさよは、ただの荷車引きの男を目撃する。この出来事を通し、太郎は他者の過酷な営みに触れ、それまでの身勝手な恐怖心を恥じ、働く人々への新たな思いを抱くようになる。
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寒い、暗い、晩であります。風の音が、さびしく聞かれました。ちょうど、真夜中ごろでありましょう。
コロ、コロ、といって、あちらの往来をすぎる車の音が、太郎のまくらもとに聞こえてきました。もう、だいぶねあきていましたので、彼はふと目をあけて、その車の音に、耳をすましたのでした。
「いま時分、あんな車を引いてゆくのは、どんな人間だろう?」
こう、彼は考えました。すると、それは怖ろしい人のようにも思われました。というのは、その音は、いま、はじめて聞く車の音ではなかったのです。
まだ、自分が小さかったとき、夜中に起きてなにかむずかると、やさしい母は、
「あの音は、なんだろう……。だまってだまって、ああ、怖い、ああ、怖い。」といって、しっかりと自分を抱きすくめられたのを、太郎は、昨日のことのように、忘れなかったのであります。
それから後、彼は、たびたび真夜中ごろに、この車の音を床の中で聞いたことがありましたが、いつも、それは、人間とは思われないような、怖ろしい姿をしたものが、まったく人通りの絶えた往来の上を、車を引いてゆく有り様を目に描いたのでした。
この晩も、彼は、やはりそんなような空想にふけったのです。
「雲の切れめから、すごい星の光が、きらきらと輝いている。真っ白に霜は、電信柱に、屋根の上に降っている。寒い北風が、あのように音をたててゆく。乾いた道の上には、枯れた落ち葉がころがって、人通りもない、しんとした往来を、怖ろしい男が、あのように、だまって車を引いてゆくのだろう……。」
彼は、覚えず、夜具のえりに、顔を埋めて小さくなりました。
* * * * *
太郎の家へ、三、四か月前、田舎からきた女中がありました。彼女は、まだ、十六、七になったばかりです。
この夜、あまり寒いので、ふと目をさますと、ちょうどこの車の音を、彼女も聞いたのでありました。
「おさよ、おまえは、夜、目をさますことがあるかい。」と、家の人に、たずねられましたときに、