雪雑記
本文約9,900字 ・ 読了時間 約20分
あらすじ(AIが作成しました)
雪の結晶を人工的に作ることに魅せられた研究者が、自身の雪に対する愛着と探求の過程を綴る随筆。顕微鏡写真の撮影という当初の目的から発展し、北海道の十勝岳での過酷な野外観察や、雪の結晶の微細構造を解明するために結晶を切り出すという困難な試みまで、研究の道のりを描く。雪の結晶が持つ造形の美しさと、謎を解き明かそうとする研究者自身の奮闘や、周囲との交流を通じた発見と体験を収める。
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この頃大ていの雪の結晶が皆実験室の中で人工で出来るようになったので、自分ではひとりで面白がっている。よく人にそれはどういう目的の研究なんですかと聞かれるので、こうして雪の成因が判ると冬期の上層の気象状態が分るようになって、航空気象上重要なことになるのですよと返事をする。そうすると大抵の人はなるほどと感心してくれる。しかし実のところは、色々な種類の雪の結晶を勝手に作って見ることが一番楽しみなのである。
もう六年前の話になるが、初めて雪の結晶の顕微鏡写真を撮ってみようかと思い付いた頃は、この美しい結晶が人工で出来ようとは夢にも思っていなかった。丁度その前年亜米利加のベントレイの雪の本が出版されたのが機縁となって、日本の雪はどうだろうと思い付いたのであった。初めの中はとてもベントレイのような綺麗な写真は撮れないだろうがと思いながら、とにかくやって見ることにした。何よりも雪のとけないような寒い所でなくてはこの実験は出来ないので、附属屋の方へ行く廊下の片隅で始めることにした。此処はスチームも通っていないし、冬になるととても寒いので余り人も通らず、先ず究竟の場所である。其処へ実験台の小さいのを一つと顕微鏡とを運んで、冬の間は一度もあけたことのない引戸をすっかりあけ放すと、先ず準備は出来たのである。