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TORENDIA

生きている看板

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

町から村へ続く往来に住むペンキ屋の兵蔵は、日々の暮らしに追われる周囲とは対照的に、何もせずに空想に耽る生活を送っていた。ある日、町一番の老舗菓子屋から看板の制作を依頼された彼は、看板に美しい女を描く。しかし、翌朝看板を見ると、その美人には小さな角が生えていた。この奇妙な看板は人々の間で様々な噂を呼び、町の名物として存在し続ける。本作は、世間の喧騒とは異なる独特な感性を持つ男の不可解な行動を描く。

小川未明

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🎧 生きている看板 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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町から、村へつづいている往来の片側に、一軒の小さなペンキ屋がありました。主人というのは、三十二、三の男であったが、毎日なにもせずに、ぶらぶらと日を送っていました。このあたりの商店は、一度、かけた看板は汚れて、よくわからなくなるまで、懸けておくのが例であって、めったに、新しくするということはなく、また、新しい店が、そうたくさんできて、看板を頼みにくるということもなかったのです。

「そんなことで、商売になりますかな。」といって、ペンキ屋のことを近所でうわさするものもありました。

それも、そのはずであって、いくら、地方の小さな町といっても、工場では、機械が運転をして、人々はせっせと働いていたし、またほかの商店では、一銭二銭と争って、生活のためには、血眼になっていたからでした。

ペンキ屋の主人の兵蔵は、ぶらぶらとして、自分の家の戸口を出たり、はいったりしていました。そして、ぼんやりとするときは、町の方をながめ、あるときは、村の方をながめて空想していました。

彼が、どんなことを頭の中に思っているか知った人はありません。ただ、彼が、こうして、いるうちに、彼を除いて世の中は、せっせと駆け足をしていたのであります。

ある男は、一日のうちに、五円ばかりもうけました。ある男はこの一週間の中に、東京から、大阪の方までまわってきました。また町へ、旅から役者がきて芝居を打って去れば、その間には質屋の隠居が死に、指物屋の娘は嫁にいったのであります。けれど、ペンキ屋の主人の生活には、変わりがありませんでした。

「兵さん、このごろは、どうですい。」と、聞くものがいると、兵蔵は、にやりと笑って、

「あいかわらず、暇です。」と答えました。

女房は、質屋へ持ってゆく品物もつきて、子供のものまで持ってゆきました。

「なにか、ほかの商売をすればいいのに、ああ遊んでいては、困るのもあたりまえだ……。」と、近所のものは、見るに見かねて、ささやき合ったのです。

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