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TORENDIA

黒い旗物語

本文約4,600字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

北の港町へ、胡弓を弾く爺と子供の乞食がやって来る。町の人々は二人を冷酷に追い払うが、ある日彼らは姿を消し、海には沖に停泊する黒い旗を掲げた真っ赤な船が現れる。その後、同じ年頃の子供が町に現れ、珊瑚や真珠を差し出し着物や食料を求める。盗みを疑われ追い返された夜、町は火事に見舞われ一軒も残らず焼き払われる。以来、北海の地平線には折に触れて黒い旗が見えると語り継がれる。

小川未明

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🎧 黒い旗物語 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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一

どこからともなく、爺と子供の二人の乞食が、ある北の方の港の町に入ってきました。

もう、ころは秋の末で、日にまし気候が寒くなって、太陽は南へと遠ざかって、照らす光が弱くなった時分であります。毎日のように渡り鳥は、ほばしらの林のように立った港の空をかすめて、暖かな国のある方へ慕ってゆきました。

爺は破れた帽子をかぶっていました。そして西洋の絵にある年とった牧羊者のように、白いあごひげがのびていました。子供は、やっと十か十一になったくらいの年ごろで、寒そうなふうをして爺の手を引いて町の中を歩きました。爺は胡弓を持って、とぼとぼと子供の後から従いました。

その町の人々は、この見慣れない乞食の後ろ姿を見送りながら、どこからあんなものがやってきたのだろう。これから風の吹くときには気をつけねばならぬ。火でもつけられたりしてはたいへんだ。早くどこかへ追いやってしまわなければならぬ、といったものもありました。子供は毎日爺の手を引いて町へ入ってきました。そして戸ごとの軒下にたたずんで、哀れな声で情けを乞いました。けれど、この二人のものをあわれんで、ものを与えるものもなければ、また優しい言葉をかけてくれるものもありませんでした。

「やかましい、あっちへゆけ。」

と、どなるものもあれば、また家の内から、大きな声で、

「出ないぞ。」

といったものもありました。

こうして二人のものは、終日この町の中をむなしく歩きまわって、疲れて空腹を感じて、日暮れ方になると、どこへともなく帰ってゆくのでした。爺の歩きながら弾く胡弓の音は、寒い北風に送られて、だんだんと遠くに消えてゆくのでありました。こんなふうに町の人々には、この二人の乞食を情けなく取り扱いましたけれど、やはりどんなに風の吹く日も、また寒い日にでも、二人はこの町へやってきました。

町の人々は二人を見送って、

「まだあの乞食がこの辺りをうろついている。早くどこへなりとゆきそうなものだ。犬にでもかまれればいいのだ。」

と、涙のない残忍なことをいったものもあります。

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