なくなった人形
本文約3,100字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
冬の穏やかな日に門口で人形と遊んでいたおみよは、少し目を離した隙に大切な人形を失う。それは近くにいた乞食の少女が持ち去ったものであった。人形を奪われたことに心を痛めるおみよであったが、自身の夢に乞食の少女が貧しい小屋で大切そうに人形を抱き眠る姿が現れる。この経験を経て、盗みを働いた相手を罰するのではなく許すという葛藤と選択を描き、貧富の差や優しさという情について問いかける物語である。
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冬でありましたけれど、その日は、風もなく穏やかで、日の光が暖かに、門口に当たっていましたので、おみよは学校から帰りますと、ござを敷いて、その上で、人形や、おもちゃなどを出してきて遊んでいました。すこし前まで、近所のお友だちがきて、いっしょに遊んでいたのですが、お友だちはちょっと用ができて家へいったので、後には、まったくおみよ一人となったのでした。けれども、彼女はすこしもさびしいとは思いません。かわいい人形がそばにありますから、それを抱いたり、下にすわらせたり、またそれにものをいったり、おもちゃのお膳や、茶わんや、さらなどに、こしらえたごちそうを入れて、供えてやったりしていますと、けっしてさびしくもなんともなかったのであります。
その人形は、今年の春、田舎から叔父さんが出てこられたときに、叔父さんといっしょに、町へいって買ってもらった、好きな、たいせつにしている人形でありました。
日は、だんだん西の方へまわりましたけれど、まだそこには、暖かな日が当たっていました。
「さあ、こんどはなにをおまえにこしらえてあげようかね。」と、おみよは人形に向かって、独り言をもらしたのです。
そのとき、あちらのさびしい路のほうから、こちらにやってきた、哀れなふうをした、七つか八つになったくらいの乞食の女の子がありました。どこへゆくのでしょうか、ふと、この家の前を通りかかりましたが、乞食の子は、おみよが、いま人形にごちそうをこしらえてやろうとして、菊の花や、山茶花の花弁を、小さな刃物で、小さなまないたの上に載せて刻んでいるのを見て、思わず歩みを止めて、しばらく我を忘れてじっとながめていました。
乞食の子は、まだ産まれてから一度も、そんな美しい人形や、おもちゃ道具を手に持って、遊んだことがなかったのです。乞食の子は、おみよの幸福な身の上をうらやみました。なんで自分も、あの方のように生まれてこなかったのだろう。自分はいつになったら、あんなかわいらしい人形や、おもちゃを持つことができるだろうと、真におみよの身の上をうらやましく思ってながめていたのです。