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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約11,000字 ・ 読了時間 約22分

あらすじ(AIが作成しました)

百姓の仁兵衞は、奉公に出したまま帰らぬ息子文三の行方を捜してほしいと銭形平次に頼む。平次は文三の奉公先である赤塚家を訪れるが、そこで若様とされていた数馬の遺体を発見する。数馬の頬には黒子の刺青があり、死体の特徴からその正体が文三であることが判明する。平次は、赤塚家の用人久賀彌門らが身代わりとして文三を利用し、後に殺害した真相を突き止め、密かに文三に思いを寄せていた娘のお駒の証言を得て、真の下手人である彌太郎を追い詰める。

野村胡堂

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一

「親分、是非逢ひ度いといふ人があるんだが――」

初冬の日向を追ひ乍ら、退屈しのぎの粉煙草を燻して居る錢形平次の鼻の先に、ガラツ八の八五郎は、神妙らしく膝つ小僧を揃へるのでした。

「逢つてやりや宜いぢやねえか、遠慮することはあるめえ、――相手は新造か年増か、それとも婆さんか」

「あつしぢやありませんよ。錢形の親分に逢ひ度いんださうで、染井からわざ/\神田まで、馬に喰はせるほど握り飯を背負つて來ましたよ」

八五郎は自分の肩越しに、拇指で入口の方を指しました。

「堅い方だな、よく/\の事があつて遠方から來なすつたんだらう。洗足盥は洗濯物で一杯だ、すまねえが井戸端へ案内して、足を洗つたら此處へ通すが宜い」

平次がさう言ふのも待たず、

「恐れ入りますが親分さん、私は此處で御免を蒙ります――明るいうちに歸らないと、婆アが心配をいたしますので。へ、へ、へ」

妙な苦笑ひと一緒に、澁紙張にしたやうな五十恰好の老爺が一人、木戸を押し開けて、縁側の方へ顏を出しました。

「其處でも構はないが、陽が當つて少し眩しからう」

「へエ、天道樣に照らし付けられるのは、馴れて居りますので」

「成程、さう言へば狹い家の中よりは、埃つぽい江戸の街中でも、外の方が氣持がよからう、――ところで、あつしに用事といふのは何だえ、爺さん」

平次は煙草盆と座布圃を持つて、氣輕に縁側へ出て行きました。

「染井のお百姓で、仁兵衞さんといふんださうですよ。知合から知合を辿つて、向柳原の叔母さんのところへ來て、――お前さんに傳手があるちう話を聞いて來たが、錢形の親分さんに逢はせて貰れえ度え、お禮はなんぼでもするだから――と背負つて來たのは一と抱へほどの化けさうな人參と牛蒡――」

八五郎はツイ手眞似になるのでした。

「お前は引込んで居ろ、馬鹿野郎。そんなに思ひ詰めて來なすつたんだ、冷かしたり何んかすると承知しないぞ」

「へエ」

「爺さん、氣にしないで下さいよ。此野郎は賢こさうな口をきいてゐるが、心が少しばかり足りないんだから――」

「さうかね、見たところはそれほどでもないが、氣の毒なこつたね」

「へエツ、悔みまで言はれちや世話アねえ」

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